≪発症メカニズム≫

筋・筋膜性腰痛の発症は,上述したような筋の硬さや筋力不足等より起因する不良姿勢により,腰背部筋へ持続的かつ過剰な収縮が強いられた結果,過用(使い過ぎ)に至り痛みを生じます。具体的には,不良姿勢の『反り腰』は,解剖学的に腰椎前彎及び骨盤前傾が強い状態を示し,腰部の脊柱起立筋等は持続的な収縮状態に陥ります。また,不良姿勢を呈する選手は,腹筋群におけるインナーマッスルの機能低下あるいは筋力不足を有している事が少なくなく,それは腰背部の筋肉へ依存した姿勢保持ならびにスポーツ動作を招き,同筋肉の過用(使いすぎ)を引き起こします。

さらに,専門的には腰椎骨盤リズムという運動学的な概念が存在し,腰椎-骨盤と股関節は連動して動くからこそ,正常な身体動作が起こります。しかし,股関節周囲の筋肉の硬さ等が認められる場合,このリズムの破綻を招くと共に上記同様,腰背部筋の過用(使い過ぎ)を引き起こし,筋・筋膜性腰痛の発症へ繋がります。







図1 腰椎骨盤リズム


体を曲げる運動は腰椎で約40°、股関節で約70°の屈曲の組合せとなります。


体を曲げる全可動域において,腰椎・骨盤・股関節は連動・協働して動きます。


≪成長期スポーツ障害としての筋・筋膜性腰痛≫

では何故,筋・筋膜性腰痛が成長期スポーツ障害として多発するのか?

この理由は予防を図るためにとても重要であり,セルフコンディショニングを実践する最大の目的となります。まず,成長期の身体の変化は他コラムでも述べてきましたが,端的に述べると骨の長軸方向への成長に対して,筋の成長速度は遅いため筋の硬さ(身体の硬さ)を惹起します。この筋の硬さや,筋の発達段階であるが故の筋力の不足あるいはimbalance(不均衡)等により,前項で述べたような不良姿勢や身体動作における運動学的破綻を誘発するため,成長期に好発しやすいと考えられます。加えて,部活動やクラブ活動にて,野球のピッチング動作・バレーボールのスパイク動作・サッカーのキック動作・陸上のランニング動作等,様々な各種スポーツ動作が毎日のように繰り返し行われる一方で,十分な身体のケアが施されないため,成長期スポーツ障害としての筋・筋膜性腰痛へ繋がるのです。つまり,日々のセルフケアとしては,筋柔軟性の維持及び向上筋力の維持及び向上imbalanceの是正等を図る事が重要となります。



それでは,『どのような姿勢が良くないのか?』『どのように筋肉の硬さをチェックするのか?』『どのような方法で予防を図るのか?』等について,以下のセルフチェックポイント及びセルフコンディショニング項をご参照下さい。

そして,チェックポイントにて一つ以上当てはまった場合は,可及的早期にセルフケア・セルフコンディショニングに取り組み,筋・筋膜性腰痛の予防に努めましょう!




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≪腰痛について≫

“腰痛”はスポーツ選手だけでなく一般成人にもみられる疾患であり,人口の70%以上が一生に1回以上の腰痛を経験していると言われています。

一般的に“腰痛”と聞くと,『ぎっくり腰』や『腰椎椎間板ヘルニア』などの疾患を連想されることが多く,いわゆる過用(使い過ぎ)による筋肉及び骨由来の“腰痛”は単純に考えられがちな印象を受けます。しかし,実際は腰痛の原因を断定・確定できるようなケースは思いのほか少ないのが現実です。



≪腰痛の原因疾患について≫

腰痛を惹起し得る原因疾患は,腰部の骨や椎間板の変性或いは破壊によって生ずる腰椎椎間板ヘルニア腰部脊柱管狭窄症腰椎分離症腰椎すべり症等と,レントゲンやMRIなどの画像検査上明確な原因を突き止めることができない非特異性腰痛等の2つに大別されます。そして,後者の場合である事が圧倒的に多く,腰痛全体の約85%を占めると言われている他,その非特異性腰痛の中で最も多いと示されているのが筋・筋膜性腰痛です。

さて,ここから成長期における腰部のスポーツ障害について詳述していきます。

成長期における腰痛の代表的な原因疾患は,上述した『腰椎分離症』や『筋・筋膜性腰痛』等が挙げられます。そして,今回のコラムでは筋・筋膜性腰痛に対するコンディショニングについて詳述していきます。



≪筋・筋膜性腰痛とは?≫

 一言で言えば“腰部周辺の筋疲労による痛み”であり,主として腰部の脊柱起立筋(※図内青印)に生じることが多いと考えられています。原因としては,いわゆる猫背や反り腰などの不良姿勢により惹起されるケースが非常に多いとされています。しかし,実際には『筋肉の硬さ筋力不足あるいはimbalance(不均衡)等の結果,不良姿勢が構築される』と捉える必要があり,換言するならば,上記の筋肉における諸問題点に対し,日々セルフコンディショニングを実践する事で予防できる可能性が高いという事です。

尚,筋・筋膜性腰痛は筋傷害に伴う急性の痛みと,同様の病態が長期間続く慢性的な痛みがあり,前者は,組織傷害自体の治癒に伴いおおよそ23週間で寛解すると言われています。また,後者に関しては傷害組織の治癒遷延だけでなく,筋の器質的・機能的変化を生じ,23ヶ月以上にわたって痛みやコリが持続すると言われています。



症状の特徴としては,身体を後ろへ反った(後屈)際に腰痛が出現する※図内青印部分)事が多いとされ,発症初期はスポーツ活動後にのみ,その後は徐々にスポーツ活動中やその前後にも痛みを生じるようになり,最終的には日常生活においても痛みや違和感を伴うようになります。また,腰椎分離症のような骨・関節上の問題では無いため,痛みは腰部の真ん中には生じず,背骨から左右のどちらか(筋肉)に生じる事も特徴的です。尚,症状の重症化に伴い,どの方向へ身体を動かしても痛みを生じるようになりますが,神経症状(下肢の痺れ)を伴う事は少ないと考えられています。




図1 筋・筋膜性腰痛の痛みが出現しやすい部位




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筋・筋膜性腰痛の基礎知識②

今回は寒冷療法の1つであるコールドスプレーについて紹介をしたいと思います。




 スポーツ活動時に捻挫・打撲・肉離れなどをした場合、コールドスプレーを使用して応急処置を行っている場面をよく見かけます。患部にコールドスプレーを振りかけると痛みが楽になるのを感じるのではないでしょうか?


コールドスプレーの主な効果としては、皮膚表面を急速に冷却し筋・筋膜・皮膚に存在する痛みを感じる神経を麻痺させ、怪我による痛みを軽減させる補助的な効果が認められています。

つまりは一時的な鎮痛作用があり、重症ではない怪我の場合は痛みを軽減させてプレーの継続が可能となります。

しかし、コールドスプレーの欠点としては長時間同一部位をマイナス数度以下で急速に冷却してしまうことで凍傷の恐れもありますし、皮膚表面の温度を急速に低下させることはできますが、深部の損傷している筋・腱などの部位までは冷却することはできないことです。そのため鎮痛作用は一時的であり、損傷を受けた組織等に対しては処置をしていない状態と同様です。

つまりコールドスプレーでは深部まで冷却できずに捻挫・打撲・肉離れの際に起こる内出血や浮腫を抑制する効果は期待できません。さらにコールドスプレーで組織が急激に冷却されることで体温を上げようとする身体の防御機能が働いてしまい、逆に患部の温度が上昇し患部の代謝が促進されて二次的な細胞壊死が起こる危険が生じます。これでは本末転倒です。また、一時的に痛みが緩和されるために無理なプレーを行い重症化してしまう危険性もあります。

寒冷療法の1つである氷を使用しても深部を冷却するには最低でも10分以上の時間を要します。また深部の温度を低下させるためには一見コールドスプレーの様にマイナス何℃の冷却が効果的に思えますが、実は1番組織の温度を低下させるのは0℃付近の氷なのです。


 氷は持ち運びや温度管理用にクーラーボックスなどを用意しなくてはならないのに対し、コールドスプレーは持ち運びが便利であり、いつでもどこでも使用することができる利点があります。そのために簡便に使用できるコールドスプレーが怪我の応急処置として多く使用される結果となっているのだと思われます。

捻挫・打撲・肉離れは軽視されがちですが、初期の段階での処置を誤れば重症化する危険性もあるため、怪我の大小に関わらず、痛み・腫れ・発熱・発赤などの症状が怪我の部位に生じている場合はRICE処置(‟R”rest “I”=ice “C”=compression “E”=elevation)の励行が必要です。

最後までお読み頂きありがとうございました。

 普段何となく使用しているコールドスプレー。一時的な痛みの軽減には有効なこと、逆に捻挫・打撲・肉離れの応急処置としては不十分だということを理解し、RICE処置を怪我のあと3日間は継続し、状態によってはその後は温熱療法へ移行していくことをお勧めします。どんな道具にも言える事ですが道具の利点・欠点を理解し、使用する本人自身が効果のある方法でコールドスプレーを使用して下さい!