今回は野球肘、特に中学生前後に多い肘のOCDについてご説明させて頂きます!
●「野球肘」とは、投球による肘へのストレスが繰り返しかかることによる「オーバーユース傷害」、いわゆる「使い過ぎ」=「投げ過ぎ」傷害であると思われています。一見、正しく思える考え方ではありますが実は大きな落とし穴となっていることを認識していただきたいと思います。
「投げ過ぎならば休めてやれば治る」「治れば次から投げ過ぎに注意しながら野球を続ければよい」という考えにいきがちですが、実際ほとんどの選手は他の選手とさして変わらない野球をしていて「野球肘」になってしまっているはずです。つまり「野球肘」になった選手は、同じ野球をしている他の選手より知らずに余計な負担を肘にかけていることとなります。同じ一球を投げても他の選手より余分なストレスが肘にかかってしまうために生じた「オーバーユース傷害」が「野球肘」なのです。
●肘の離断性骨軟骨炎(肘OCD)について
「野球肘」には「内側型野球肘」、「外側型野球肘」、「後方型野球肘」と分けられており、OCDは、「外側型野球肘」に分類され、骨化未成熟な12~15歳の成長期に発症し、関節面の一部が軟骨下骨とともに分離を生じ遊離体に至る進行性の疾患です。特に成長期の野球少年では上腕骨小頭に圧痛や運動時痛が出現し、関節炎が生じると可動域制限を認められるようになります。その後、進行すると引っかかりやロッキングを生じ変形性肘関節症に至ることもあります。
診断には画像診断が有用とされており、X線像評価では病期分類、MRI像では不安定性の評価、CT像では転位骨片の存在を確認することができます。
図.1肘関節(上腕骨小頭)
●OCDの病期分類
OCDはその時期によって3段階に分類されます。
初期(透亮期)は軟骨が壊死を起こした状態で、投球時のみ痛みが認められます。しかし痛みが認められないケースも稀ではありません。中期(分離期)は骨軟骨に亀裂が入り肘の完全伸展や屈曲が困難となります。末期(遊離期)になると肘の動きに伴い、剥がれかけている骨片が動くため肘の曲げ伸ばしが困難となり、強い痛みが認められます。骨軟骨片が完全に剥がれ落ちると遊離体(関節ねずみ)となり、関節の中を自由に動き回り、軟骨を傷つけるようになります。また動き回った骨片が狭いところに挟み込まれるとロッキング現象が認められ、肘が動かなくなります。
図.2 OCD病期分類
●野球肘の原因となる投球時のストレス
投球時には腕を振ることでボールを加速させますが、このとき肘の傷害を生じるストレスがかかりやすいフェーズがあります。それはレイトコッキング期から加速期において肘をしならせるときにかかりやすい「外反力」とボールリリースからフォロースルー期にかかりやすい「伸展力」です。外反力とは上腕骨に対して前腕が外へ振れようとする力であり、このとき肘の内側には牽引力(引張り力)、外側には圧迫力(ぶつかる力)がかかります。それぞれにより生じる傷害を「内側型野球肘」、「外側型野球肘」と分類されます。
図.3 投球動作時の外反ストレス
図.4 投球段階図
●外側型野球肘(OCD)
外反ストレスにより肘外側において、上腕骨小頭と橈骨頭の衝突が原因と考えられているOCD。上腕骨小頭は生下時には軟骨であり、成長に従って骨化を始めます(その骨を骨化核という)。このときに繰り返す圧迫力が加わるとそこに循環障害が生じ、骨化核の分節化を惹起します。この傷害に気づかず、または痛みを押して投球を続けると、成長終了時に骨片が癒合せず、いずれ関節内に剥がれ落ちて「関節ねずみ」となります。これは早期に発見してノースロー(投球禁止)によりストレスを極力回避し、成長による骨形成能を最大限発揮させることによってのみ治癒が期待される傷害です。従って肘の成長が終了にさしかかっている中学生(成長の個人差を加味して判断する必要があるが)で発見された場合には自然治癒を期待するには極めて困難で、何らかの手術を要することが多いです。完全治癒が期待できる可能性の高い小学生レベルで早期発見することが極めて重要な傷害であると言われています。逆に言えば、成長も病期も進んだ中学生以降のOCDに対して、ノースローで何ヵ月も無用な時間を浪費するのは無意味であり、正確な診断と評価の下、適切なタイミングで適切な手術を選択することが早期復帰には重要であり、その成否が選手の野球人生を左右することとなりかねません。またOCDは関節ねずみになってしまうと逆に疼痛が消失することが多く、「ロッキング」という関節ねずみが関節に嵌頓して激痛とともに肘が動かせなくなる症状が出るまで、治ったと勘違いする危険性がはらんでいます。関節ねずみの危険なところは、痛みがないため放置していると肘関節全体の軟骨を徐々に損傷・変性させ、気づかないうちに「変形性関節症」という不可逆な障害に陥ってしまうことです。
外側型野球肘において、小学生など若年では外側型野球肘を見過ごさず注意深く治癒経過を観察し、中学生レベルで適切な治療を選択して変形性関節症を未然に防ぎながら野球に復帰させるため、早期に専門家に相談することが重要となります。
次回はその肘OCDの早期発見のためのセルフチェックポイントをご紹介させて頂きます!