4: 化学物質過敏症を見落とさないために──各診療科へのお願い | 化学物質過敏症 runのブログ

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各診療科へのお願い
CSは多彩な自覚症状を呈するため、患者はあらゆる診療科にかかる可能性があります。
たらい回しを防ぎ必要な医療につなげるため、以下各診療科における注意点をまとめます。

また、表6に化学物質過敏症の診察を行っている医療機関を一覧にしました。

一般内科
発症当初、患者は未経験の状態に陥っているため、しばしばパニックになることもあります。

このため家族から精神疾患を疑われている患者は決して少なくありませんが、CS発症後に二次的に精神症状を呈している患者が大部分です。

詳細な病歴聴取でこの点を明らかにできた場合は、精神科への紹介は対症的な精神安定薬の処方依頼に限ってください。

なお、極めてまれですが、自死を来すケースもあるので要注意です。
診察は基本個別対応とし、職員も香料、整髪剤等の使用を控えてください。

衣服の残留洗剤、柔軟剤に反応する患者もいるので、可能なら白衣も含めて、石鹸洗剤とすることを勧めます。


アレルギー科
アレルギーは通常は無害な外来抗原あるいは免疫学的な修飾を受けた自己抗原に対して過剰な免疫反応を起こすことをいいます。

いずれにせよ原因物質はタンパク質であり、 化学物質過敏症とは別の疾患です。

しかし、患者も医師もCSをアレルギーの一種と考えることが多く、 アレルギー科への紹介は決して少なくありません。

原因物質が異なるわけですが、過敏性という共通点があり、それが誤解の一因になっています。
CS患者が意識障害を来して、 救急搬送された場合、アナフィラキシー・ショックと診断されるかもしれません。

血圧低下などの循環器症状がない場合は意識が清明になってから、しっかり病歴をとって見てください。
薬物アレルギーは病因としてはかなり近いため、多くのCS患者は全身麻酔や局所麻酔はできないと考えています。

慎重であるべきですが、 薬物アレルギーのリスクはCS以外の患者とほぼ同等と考えて対応しております。
CS患者の中には食物の添加物や残留農薬に反応する患者がいます。野菜、果物、穀類の摂取で皮膚症状、消化器症状を呈す場合、食物アレルギーと考えがちですが、無農薬や低農薬の食物が摂取できれば食物アレルギーは否定されます。


呼吸器科
呼吸困難は本症に比較的多い症状です。

「息が吸えない」「喉が閉まる」などと訴えることが多く、気管支喘息との鑑別が重要になります。

呼気性の呼吸困難でない点、喘息発作ほどの持続がないなどの場合は鑑別は容易です。

鑑別が困難な場合は気道可逆性試験が有用です。

ただし、まれなケースですが、症候的には喘息発作の定義に該当する症状を呈し、気道可逆性試験陽性であった1例を経験しました。

すでに呼吸器以外の多彩な症状があり、いったんは気管支喘息の合併と診断しましたが、化学物質回避の徹底により、その後、喘息発作を来していません。

CSにより定義上の気管支喘息を発症した症例と考えています。


循環器科
動悸をはじめ循環器症状を訴える患者は少なくありません。

循環器系の一般的検査で異常なければ、その旨記載の上、CS外来に紹介いただけると助かります。


精神科・心療内科
家族や職場の上司および受診医から精神疾患を疑われて受診する患者がいます。

精神疾患そのものでCS症状のない場合は問題ないと思いますが、CS症状を呈す場合は、3つの可能性を検討する必要があります。

第1はCS発症後の二次的なうつ状態などで、これが大部分です。

次は精神疾患の合併です。

精神疾患の発症が先行した場合は問題ありませんが、CS発症が先行した場合は精神症状に対する精神科学的な診断をしっかりすることが必要です。

CS専門医との連携をよろしくお願いします。

第3はCSが原因で精神疾患を発症する場合です。典型的なCS発症後、統合失調症の診断で入院治療した症例を1例経験しました。
退院後、向精神薬を中止して、CS対策のみで問題なく経過観察中です。

この第3の病型が存在するか否かは今後の検討が必要です。


婦人科
女性に多い疾患であり、月経異常、更年期障害を疑って婦人科を受診する場合が少なくありません。

婦人科的異常がなければ、環境要因の変化に注目してください。

やはり、曝露による増悪と回避による改善が重要です。


整形外科
受診時、筋肉痛、関節痛、四肢しびれ感を訴える患者は多くいます。症状が化学物質の曝露と回避によりメリハリがあるかどうかに注目してください。

中高年の患者では整形外科的疾患を発症する場合もあり、また、線維筋痛症を合併することもあります。

鑑別診断をよろしくお願いします。


耳鼻咽喉科
喉頭違和感、耳鳴り、めまいなどを訴えて受診する患者が多いと思います。

耳鼻科的異常がないことを確認いただき、化学物質曝露と回避による症状の消長がある場合はCSを疑ってください。


歯科
CS患者の多くは歯科受診に苦慮しています。

歯科診療で使用される充填剤、接着剤、消毒薬に反応する可能性があります。 

反応の有無には個人差がありますが、ホルマリンは反応する患者が多く、避けるべきと考えます。

局所麻酔薬の場合は薬剤アレルギーの合併の可能性も考慮してください。

疑わしい薬剤は使用前に少量を口内に入れて反応の有無を見てください。
診察時間は他の患者と接触がない時間帯に予約してください。

換気に努めますが、締め切る場合は活性炭フィルター付きの空気清浄機を使用すると良いでしょう。


おわりに
本症は、現在のところ、臨床検査で診断することはできません。 以前は、トルエン、キシレン、ホルムアルデヒドの負荷試験が行われた
こともありましたが、これ以外の化学物質にも反応している場合が大部分です。

また、負荷試験後、悪化する症例もあり、現在、日本では行われていません。

 繰り返しになりますが、日常生活の中での化学物質の曝露による症状悪化と回避による改善の有無が診断のポイントです。

初診時には様々な訴えがありますが、詳細な問診によりこの点を確認してください。
本症の存在を念頭に、場合によっては環境対策を行いながら、診断することが重要です。
文献
1)Randolph. T. G.:Human Ecology and Susceptibility
to the Chemical Environment. Springfield, Charls CThomas, 1962.
2)Editorials. Multiple chemical sensitivity : A 1999
consensus. Archives of Environmental Health 54
(3): 147-149, 1999.
3)相澤好治, 宮島江里子, 小倉英郎ほか:全国的疫学調査によるシックハウス症候群 診断基準妥当性の検討. シックハウス症候群の診断基準の検証に関する研究 平成21〜22年度報告書(研究代表
者相澤好治), 9-24, 2011.

4)小倉英郎ほか : シックハウス症候群の臨床的研究. シックハウス症候群の診断基準の検証に関する研究 平成21〜22年度報告書(研究代表者相澤好治), 25-28, 2011.
5)小倉英郎 : シックハウス症候群/化学物質過敏症. 1075-1076. 今日の治療指針 医学書院. 東京.2019.
6)小倉英郎:化学物質過敏症小児の現状とその対応. アレルギーの臨床. 41(14): 28-31, 2021.