化学物質過敏症を見落とさないために──各診療科へのお願い | 化学物質過敏症 runのブログ

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化学物質過敏症を見落とさないために──各診療科へのお願い
出典:月刊保団連 2022.3 No.1366
医療法人高幡会大西病院 国立病院機構高知病院アレルギー科 小児科医


小倉 英郎 おぐら ひでお
1970年岡山大学医学部を卒業し、同大学小児科学教室入局。1980年高知医科大学小児科
助手。同大学講師、助教授。1988年国立療養所東高知病院副院長。1994年同病院院長。
2000年国立高知病院副院長(同年、国立高知病院と東高知病院が統合)。2014年医療法人
高幡会大西病院院長。医学博士。小児科専門医、日本アレルギー学会指導医、日本臨床環境
医学会会員、室内環境学会会員、高知大学医学部臨床教授。分担執筆に『今日の治療指針』
(「シックハウス症候群/化学物質過敏症」の項、医学書院)、共著に『化学物質過敏症対策 専門医・スタッフからのアドバイス』(緑風出版)がある。
化学物質過敏症への一般の認知度はいまだに極めて低い。

同じ環境にいる健康人は無症状であるため、周囲の理解がほとんど得られないことがその背景にある。

最近は熱心な医師からの紹介を経験するようになったが、以前は、患者に対して診療拒否に近い対応がなされ、たらい回しになることもまれではなかった。

本症の病状から救急受診することも少なくなく、このような場合は特に患者との信頼関係が構築されていない点がしばしば問題となった。患者の訴えを真摯に受け止め、しっかりカルテに記録することが本症理解の第一歩である。

はじめに
化学物質過敏症(CS:Chemical Sensitivity)は、1962年米国のRandolphによる環境汚染病の提唱を端緒とします1)。

1970年代には欧米ではシックビルディング症候群が発生、日本では1990年にシックハウス症候群(SHS:Sick House Syndrome)として紹介されました。

この学校版がシックスクール症候群です。両者は2002年の厚生労働省による室内空気中化学物質濃度(13物質と総揮発性有機化合物)の指針値等の提示により減少の傾向にありますが、化学物質過敏症は、今後、増加が懸念されます。

当院の化学物質過敏症外来における約20年間(2000年10月〜2021年3月)の臨床経験から本症の実態と対応について解説します。


化学物質過敏症とは
ある特定の化学物質に曝露することにより発症し、頭痛、咳嗽、呼吸困難、ふらふらして歩けないなどの様々な症状を来す疾患です。
初回の化学物質曝露の程度にもよりますが、ある一定期間の曝露後に発症することが多く、SHSがその典型です。
同じ化学物質の曝露で同様の症状を呈しますが、発症後はそれと関連性のない多数の、そして微量の化学物質にも反応するようになるため日常生活に多大な支障を来すことになります。

しかし、同一環境にいる健常者は無症状であるため、CS患者の症状に対する周囲の理解が得られない点が問題となります。
CSの発症機序については不明の点が少なくないのですが、本症の研究者や専門医の間では、空気中の微量の化学物質が肺から吸収されて、 血液を介して中枢神経系に到達し、様々な症状を呈すと考えられています。

また、鼻腔粘膜から嗅神経を経て直接脳に到達する可能性も指摘されています。

化学物質が脳に影響を及ぼすため、 非常に多彩な症状を呈すことになります。
もう一点は素因の存在です。

化学物質の人体への害は従来の中毒と化学物質過敏症の2つに分類されます。

中毒では一定濃度以上の曝露でほとんどの人が発症します。

一方、CS患者は、一般健康人では反応しない、極めて低レベルの化学物質の曝露でも反応し、 症状を呈します。

健康人では異臭を感じないレベルでも患者は異臭を感じ、症状を呈します(異臭を感じないで、症状を呈すこともあります)。