◆感熱紙の顕色剤とは
レシートなどに使われる感熱紙は、インクを使って印刷しているのではなく、熱を加えたところが黒くなる仕組みです。
感熱紙の表面には、常温では無色な染料と顕色剤が塗られており、熱を加えることで染料と顕色が化学反応を起こし黒色に発色します。
この顕色剤にビスフェノール類が使われています。
感熱紙からのばく露のリスクを欧州化学機関(ECHA)が評価
実際に日常生活で感熱紙を触ることになるリスクはどのくらいなのでしょうか?EUでは、2015年にECHAのリスク評価委員会が、レシートなどの感熱紙からのビスフェノール Aのばく露のリスクを評価した報告書を発表しています*1。
皮膚からの吸収量の基準値を、一般公衆で1日当たり体重1kg あたり0.1μg、労働者は2倍の0.2μgと設定しました。
実際のばく露評価では、様々なモデルを使って推定していますが、一般公衆のばく露量は、おおむね0.01~0.1μg の範囲内で基準値以内に収まっているのでリスクはないと判定されました。
一方労働者の場合、ワーストケースのばく露では、0.37~1.427μgと基準値(0.2μg)を超えるケースもありました。
ワーストケースとは、スーパーマーケットでのレジ打ち従業員を想定したものです。
ちなみに2015年の中国の実際のスーパーマーケットの感熱紙に含まれるビスフェノール A の量から、レジ打ち従業員が1日にばく露する量を推定した研究では、1日当たり平均で94μg ばく露すると推定されています。
この数字を体重70kgとして体重1kg あたりに換算すると1.3μgとなり欧州での基準値(0.2μg)の6.5倍となります*2。
ECHA はビスフェノール A を含む感熱紙を触った皮膚へのばく露による影響を無視できないとし、従来感熱紙に1~4%含まれていたビスフェノール A の上限値を0.02%に下げ、それ以上含む感熱紙の製造販売を禁止することを勧告しました。
欧州委員会で正式決定され、2020年1月から施行されることになりました。
実質ビスフェノール A は感熱紙の顕色剤としては使えないということになったのです。
安全とされた代替物にも有害の可能性
日本では2000年ごろまでに感熱紙に使われる顕色剤は、ビスフェノール A から別のビスフェノール類であるビスフェノール S へ代替されています。
しかしビスフェノール S についても、ビスフェノール Aと同じく上記に挙げた様々な有害作用の可能性が指摘されています。
現在、ECHA の委託により、ベルギー政府がビスフェノール S について、内分泌かく乱作用、発がん性、遺伝毒性、生殖毒性などの評価を実施中です。
日本では現在のところ、感熱紙中のビスフェノール類に関する規制の動きはありません。
消費者が実行できる対策としては、レシートを受け取ったら速やかに印字面を内側に二つ折にして印字のない裏面を触るようにすること。
航空券、ATM の利用票、ガス・水道・電気の検針票なども同様に印字面をむやみに触らないよう注意すること。
ハンドクリームなどを塗った手で触ると吸収量が大幅にアップするので要注意といったところです。