2:「子どもの発達への化学物質の影響」 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

・不完全な安全性試験
 現代では、数百万種の人工化学物質が製造・登録され、そのうち数十万種が日常的に使用されている。

これらの化学物質は、各国の制度により安全性試験を行った後に使用されているが、安全性試験は用途によって異なっており、現在の試験制度は完全とはいえない場合がある。

日本では化学物質の法規制として「化審法」があるが、必ずしも子どもたちや将来の世代への影響が十分に考慮されているわけではない。

さらに実際に起こっている複合曝露の影響は全く考慮されておらず、重大な問題となっている。
 

子どもへの化学物質の影響と実態
 子どもへの化学物質の影響として明らかになっているのは、まず IQ の低下である。

2550万人を対象とした5歳以下の IQに関する米国の調査では、医学的、社会的、化学的リスクを試算すると、早産以外に、鉛、有機リン系農薬、有機水銀など環境由来化学物質の曝露が重大なリスクとなることがわかった。
 鉛の血中濃度が高いと、IQ が顕著に下がることは明らかで、11歳の時の血中鉛濃度が高いと、38歳になった時点の IQも低くなり、その上、社会経済的状態も悪くなることが疫学研究から報告されている。

個人レベルでは、IQ が多少上下しても自覚されることはないが、社会への影響は極めて大きい可能性がある。

人口1億人の国民の IQ が平均5下がると、IQ70以下の人数が57%も増加することになる。

国民の IQ が平均1下がると、GDP が2%下がるという試算もある。

医学は、個人の健康を守ることももちろん重要だが、国民全体の健康を守ることも将来を見据え大変重要な課題である。
では化学物質の曝露実態はどうなっているだろう。

国民の化学物質の曝露に関するバイオモニタリング調査は、米国、カナダ、ドイツ、ベルギー、フランス、EU、韓国などで実施されているが、日本では国民を代表する系統立った調査は行われていない。

曝露実態を把握することは大変重要で、過去にドイツで歯の治療による水銀曝露が判明し、改善した経緯がある。
 健康を守るためには、環境保健(図1)という幅広い科学とそれに基づいた実行が重要である。特に成長過程にある子どもたちは、環境からの影響をより受けやすい。


また小さい頃の環境の影響は直ちに現れるだけでなく、成長後に現れることがある。
子どもたちは、生まれる前から様々な化学物質に曝露し、その影響は生涯を通じて現れる。
 例えば、脳の発達に重要な甲状腺ホルモンに悪影響を及ぼすものとして、臭素系難燃剤 PBDE*1がある。

PBDE は防炎目的に家具、家電製品などに多用されてきたが、甲状腺ホルモンの作用を阻害し、脳に影響を及ぼす。疫学研究では ADHD(注意欠如・多動性障害)や自閉症との関連が報告されている。
 脂質代謝や肥満への影響を及ぼす物質として、有機フッ素化合物 PFAS*2、フタル酸エステル類、ビスフェノール類などが報告されている。

PFAS は、水や油をはじく便利な物質としてフライパンなどに多用されているが、甲状腺ホルモンや脂質代謝への影響が報告されている。

プラスチックの原料となるフタル酸エステル類、ビスフェノール類も脂質代謝に影響を及ぼすことがわかっている。

ビスフェノール類は、ビスフェノール A のみ規制されているが、多種類の代替物が市場で利用されてお
り、その影響が懸念されている。
 生殖系へも化学物質が影響を及ぼしている。

男性の精巣異形成症候群(尿道下裂、停留睾丸、精巣がん)に関連する物質として、PBDE、フタル酸エステル類、有機塩素系農薬 DDT*3、PCB*4などが報告されている。

女性では、子宮筋腫、子宮内膜症、乳がんに関連する物質として、ビスフェノール A、DDT、ベンゾフェノン(紫外線吸収剤)、トリクロサン(抗菌剤)などが報告されている。

さらに、化学物質曝露が多世代にわたる影響を及ぼす可能性も報告されている。
 複数の化学物質の曝露も重大な問題だ。
私たちは PBDE、PCB、PM2.5、パラベン(防腐剤)、ベンゾフェノン、PFAS、ビスフェノール類、フタル酸エステル類、トリクロサンなど多種類の化学物質に曝露しているが、PM2.5など種類によっては生体内マーカー(バイオマーカー)では測定できない物質もあり、対処方法が問題となっている。

化学物質曝露により起こる人間への健康影響を調べる疫学研究において、伝統的な疫学の手法では複合曝露による影響は解析が難しく、現状では対応できる疫学理論が限られている。
 日本の子どもの化学物質曝露の実態は、わかっていないことが多い。

赤ちゃんはいろんな物を舐めたり食べたりするが、土やハウスダストの摂取量はわかっていない。
私たちが日本の子どものハウスダスト摂食量を調べたところ、米国で報告されている量に比べて、約半分というデータを得ており、今後検討が必要である。

内分泌撹乱作用が報告されているパラベンは、化粧品や赤ちゃんのお尻ふきなどに多用されているが、経皮でどれだけ吸収されるのか、これまでわかっていなかった。

私たちの研究で、各種のパラベンが約2~7%吸収されることがわかった。

また化粧品、スキンケアなどのパーソナルケア製品には多様な化学物質が使われており、使用する女性の曝露量は胎児や子どもに影響するので重要だが、実態は調べられていない。
さらに現在私たちは、化学物質曝露以外にも環境からの影響を受けている。

近年、スマホや電子端末の利用が子どもたちの睡眠リズムの乱れを引き起こしていることが指摘されている。

睡眠不足や睡眠の質の低下は大きな問題で、成長や健康に悪影響を及ぼす。