3:「子どもの発達への化学物質の影響」 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」
これらの多様な環境要因と子どもの健康影響を調べるために、環境省が「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を立ち上げ、私たち(国立環境研究所環境リスク・健康研究センター)が調査コアセンターとなって進めている。

エコチル調査は、2011年1月より2014年3月までに10万組の親子をリクルートし、子どもが13歳になるまで追跡調査を行うプロジェクトで、質問票調査、生体試料分析、家庭環境測定を組み合わせて行い、生体試料は長期に保管する。

全国15のユニットセンター、約300の協力医療機関があり、約10万組の母子と父親約5万人が登録している。
エコチル調査の進捗状況は、質問票調査を妊娠から7歳まで6カ月ごとに行い、生体試料は血液、母乳、尿、毛髪など合わせて500万本あり、乳歯の調査も行っている。

分析を行ったものは、金属約10万件、ニコチン代謝物10万件、有機フッ素化合物2万5000件、有機リン系農薬5000件、フェノール類1万件で、現在はフタル酸エステル類、ネオニコチノイド系農薬を測定中である。

詳細調査も開始し、2014年11月から5000人を対象に家庭環境調査を行っており、2015年4月からは精神神経発達調査・医学的検査も行っている。

いえ庭環境調査では家庭訪問を行い、寝具のダニアレルゲンやエンドトキシンの測定、室内空気中の浮遊粒子や揮発性有機化合物などの測定、掃除機のダスト採取、住環境調査などを行っている。精神神経発達調査・医学的検査 は、新版 K 式 検 査、CAT、WISC などを行い、身体測定、小児科医診察、採血、採尿を実施している。
これらの調査対象となる疾患としては、生殖(死産、早産、低出生体重など)、先天性奇形、精神神経発達(自閉症スペクトラム障害、学習障害、ADHD など)、免疫系障害(喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、川崎病など)、代謝・内分泌障害(糖代謝異常、肥満など)、がん・悪性腫瘍などが挙げられている。
 環境要因としては、化学物質はもちろんのこと、生活習慣(栄養、生活リズム、喫煙、飲酒、感染症、服薬など)、社会経済的状態(教育、家庭収入など)、職業、大気などの環境(屋内空気、ハウスダスト、温湿度、騒音など)、さらに遺伝要因についても調べている。

化学物質の対象は、PCB、PBDE、PFAS、残留性有機汚染物質、農薬、内分泌撹乱物質、合成香料、フタル酸エステル類、パラベン、トリクロサン、紫外線吸収剤、ニコチン代謝物コチニン、カフェイン、金属などがある。
 現在明らかになったこととして、妊娠中の母親の血中の金属元素の濃度を調べると、諸外国に比べて大きな違いはないが、水銀やカドミウムでは高い傾向が見られた。

母体血のカドミウムの濃度が高いと、約2倍早産になることがわかった。

母体血のマンガン濃度では、正常値に比べ高くても低くても、男子の出生体重が減ることがわかった。

また母体血の水銀濃度では、水銀の毒性を弱める微量元素セレン濃度が低いグループで水銀濃度が高いと、出生体重が平均で41g 減少することがわかった。

一人の赤ちゃんの体重で、41g の減少は大したことはないかもしれないが、日本全体の赤ちゃんへの影響として捉えると、大きな影響を持つ可能性がある。
 

エクスポゾーム(生涯曝露)と根源予防
 人間の健康には、出生前から死に至るまで、化学物質を含み精神的ストレスや物理的環境など全ての要因が関わっている。

人が生涯に曝される環境要因の総体をエクスポゾームと捉え、海外では研究が開始されている。

人間の健康や疾患は、遺伝子の働きと全ての環境曝露を含むエクスポゾームが相互に作用しあって、規定されると考えられる。

欧米ではエクスポゾームの研究に膨大な費用が計上され、ヨーロッパでは政策研究ともなっているが、日本国内ではエクスポゾームの名称すら浸透していないのが現状である。
 従来、疾病の対策には病気治療、早期発見、一次予防(病気になる前の予防、リスク要因の低減)が考えられてきたが、現在では根源予防(図2)が提唱されている。


これは、健康に害のない環境(例えば大気汚染基準、水質基準など)を作り、維持することを意味する。根源予防には医者だけでなく、全ての立場からの参画が必要となる。
2015年、国連サミットで SDGs*5(持続可能な開発目標)が採択され国内でも進められているが、健康を守り維持する根源予防には、SDGs の掲げる17の目標全てを進めていく必要があると考えている。

日本の現状は問題が多いが、私は“世界は変えられる”と信じ、仕事に取り組んでいる。
本記事は、中山祥嗣氏のご講演を元に、木村-黒田純子(理事)がまとめたものである。