2.杉並病原因裁定の特徴とその射程
ここまで化学物質過敏症に罹患したとして損害賠償を請求するには数多くのハードルが
あることを確認してきた。そのような状況下で、平成14 年6 月26 日の公害等調整委員会
裁定は因果関係について画期的な判断を行ったことで注目を集めた。
本裁定については先
行研究49 も多くあるが、本稿では化学物質過敏症訴訟の文脈、及び次節で検討する寝屋川
廃プラ施設差止訴訟との関係で、それがどのような特徴をもち、どこまでの射程を有する
ものかを検討する。
1)事件の概要
東京都は平成8 年に杉並区立井草森公園の東側に不燃ゴミ中継所を設置し、同年2 月7日から試験操業を開始した。
本中継所は、一般廃棄物中の不燃ゴミを江東区にある中間処理施設まで搬送する作業を軽減、合理化するために、小型収集車で集めたゴミをコンパクターによって圧縮処理し、大型コンテナ車に積み替える作業を行う施設である。
これにより江東区へ向かう車両を年間約64000 台減らすことができるため、自動車公害の緩和や財政支出の抑制につながることが期待された。
ところが、本中継所が本格稼働した同年4 月1日の直後から周辺住民に喉の痛み、頭痛、めまい、吐き気、動悸などの健康被害を訴える者が続出した。
そこで周辺住民は平成8年8 月に東京都公害審査会に中継所の操業一時停止を求める調停申請を行った。
しかし、調停手続の過程で申請人らと被申請人東京都との間で因果関係をめぐり意見が対立したため、公害等調整委員会(以下、公調委という)の原因裁定があるまで調停手続を休止することとし、平成9 年5 月21 日に申請人ら18 人が公調委に原因裁定の申請を行った。
数々の調査を経て、平成14 年6 月26 日公害等調整委員会裁定が下された。