10:微小粒子状物質(PM2.5)の健康影響について | 化学物質過敏症 runのブログ

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短期基準:日平均基準値設定の根拠
微小粒子状物質環境基準専門委員会報告書では次のように整理した。
1. 短期曝露による健康影響がみられた国内外の複数都市研究から導かれた98パーセンタイル値は39μg/m3を超えると考えられた。
2. 日死亡,入院・受診,呼吸器症状や肺機能などに関して,有意な関係を示す単一都市研究における98パーセンタイル値の下限は30~35μg/m3の範囲と考えられた。
3. 健康影響がみられた疫学研究における98パーセンタイル値は,年平均値15μg/m3に対応する国内のPM2.5測定値に基づく98パーセンタイル値の推定範囲に含まれていた。
以上のことから,長期基準の指針値である年平均値15μg/m3と併せて,日平均値35μg/m3を短期基準の指針値とすることが最も妥当であると判断された。
その後,2013年1月に中国東部で発生したPM2.5による大気汚染問題が大きく報道され,西日本を中心とする一部の地域でPM2.5濃度の一時的な増加が見られたことから,国民的な関心が高まった。

環境省では微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合を設置し,社会的要請に配慮して,「注意喚起のための暫定的な指針」を取りまとめた(表6)。

これは環境基準とは別で,法令に基づかない指針値であり,現在まで得られている疫学的知見を基に健康影響が出現する可能性が高くなると予測される濃度水準として日平均値70μg/m3に設定された。

また注意喚起を行うためには,その日の日平均値が決定される前である必要があり,早朝の1時間値を用いて予測する方法が検討された。

その結果,日平均値と当該日午前5時,6時および7時の1時間値には相関関係が認められ,それら回帰式から,日平均値70μg/m3に相当する1時間値は85μg/m3程度と推定された。

制定後,2014年2月26日に大阪府ではじめて注意喚起が発令された。
表6 注意喚起のための暫定的な指針


6.結言
PM2.5の健康影響に関する文献を客観的にレビューした。欧米ではPM2.5濃度と総死亡,呼吸器疾患,循環器疾患の間に因果的な関連性が認められているが,わが国では欧米とは異なる知見となっている。
また中国では欧米・日本とは濃度レベルがかけ離れており,短期曝露による深刻な影響が強く懸念される。

すなわち,PM2.5問題には地域特性が存在する。
PM2.5は単に粒子状物質の粒径で定義したものに過ぎず,ヒトへの健康影響を評価する場合には,その濃度レベルの大小関係だけでなく,PM2.5の物性(発生源,化学組成等),曝露の状況(生活様式,住居構造等に関係),体の状態(疾病構造,身体・生理状態)なども考慮する必要がある。

一方,PM2.5は室内の様々な生活行為によっても発生している。

しかしながら室外と室内のPM2.5には質的に大きな相違があると思われ,大気の許容曝露基準を単純に室内の許容曝露濃度に流用するのは科学的思慮に欠ける。

世界規模でみれば今後経済発展が見込まれる開発途上国においてPM2.5問題は重要な課題となる。

PM2.5問題はグローバルに共通する公衆衛生学的課題であると同時に,地域に密着したローカルな課題でもある。
PM2.5に対する学際的な基礎研究がさらに必要である。