これらの結果では,性,年齢,喫煙などの死亡と関連する要因を調整した後でも,PM2.5濃度と死亡との間に有意な関連性がみられ,死因別にみた場合では循環器疾患による死亡との関連性が共通して認められた。Eftimetal.(2008)14)は,6都市研究およびACS研究と同じ都市・地域において,追跡期間を2000~2002年,対象者に65歳以上の老年者含み,6都市研究地域では34万人,ACS研究地域では730万人に増やして検討を行い,PM2.5の健康影響について従来研究と同等またはそれ以上の相対リスクを示した。
米国ではこれら以外にも次の主要な疫学調査が行われている。
AHSMOG(AdventistHealthStudyonSmog)研究:カリフォルニア州の非喫煙・非ヒスパニック系白人6,000人を対象としたコホート研究。
男女間の比較では,男性の方がPM2.5濃度と総死亡に相関が高いこと,PM10-2.5よりもPM2.5の方が総死亡との関連が明確なこと,オゾンは死亡率を増加させる因子になることなどを明らかにした。
VA(VeteransAdministrations)研究:米国退役軍人を対象とした研究で,PM2.5および交通密度が総死亡の増加に寄与することを明らかにした。
WHI(Women'sHealthInitiativeObservationalStudy)研究:米国の50~79歳の閉経後女性を対象に循環器(心血管)疾患との関連を調べた研究。
PM2.5が循環器疾患,特に冠動脈疾患による死亡に強い関連を認めた。
NHS(Nurse'sHealthStudy)研究:米国66,250人を対象とした調査により,PM10濃度と冠動脈疾患による死亡に関連を認めた。
また米国の老年者を対象とした研究として,Eftimetal.(2008)14)のほかに,米国メディケアデータを用いたZegeretal.(2008)26)のコホート研究がある。
USMedicarecohort研究:全米65歳以上の老年者1,320万人をとした調査。
東部と中部地域ではPM2.5濃度と総死亡に関連が見られたが,西部地区では見られなかったと報告している。
欧州においては,フランス,ドイツ,ノルウェー,オランダ,イギリスで大規模なコホート研究が行われており,米国と同様にPM2.5の長期曝露による総死亡,心肺疾患や循環器疾患による死亡との関連が示唆されている。
わが国では,1983~1985年にかけて宮城,愛知,大阪の三府県で粒子状物質の長期曝露影響に関するコホート調査が開始され,その後10年間,15年間の観察結果が報告された。
三府県コホート研究:1983~1985年に協力を得た40歳以上の男女10万人を対象にした追跡調査であり,この当時はPM2.5が観測されていなかったことからSPM濃度に0.7を乗じてPM2.5濃度換算値とした。
その結果,欧米での調査結果とは異なり,PM2.5濃度と総死亡,循環器疾患,呼吸器疾患の間には関連は見られず,喫煙等のリスク因子を調整した後,男性のみ肺がんによる死亡との関連性が認められた。
女性では,二酸化硫黄および二酸化窒素の大気中濃度と呼吸器疾患による死亡が示唆されたが,PM2.5濃度との関連は有意ではなかった。
この研究は,もともと大気汚染と肺がんの関係を調べるためのものであり,血圧や血中脂質など循環器疾患のリスク要因は考慮されていなかった。
さらにその後次の研究が公表された。
NIPPONDATA80(NationalSurveyonCirculationDisordersinJapan)研究:国内300地点から登録された13,000人を1980年から2004年まで追跡したデータに基づく調査で,SPM濃度と循環器疾患の関連を検討した。
その結果,SPM濃度と総死亡との間には正の相関は見られず,循環器疾患死亡については有意ではないが負の関連を示した。
JPHC(JapanPublicHealthCenter-basedProspective)研究:全国78,000人を対象に1990年から追跡した研究であり,SPM濃度が増加すると冠動脈疾患と心筋梗塞の発症は上昇したが,秋田県を除くと正の関連は消失した。また心血管死亡,冠動脈疾患死亡,脳卒中による死亡とは負の関連を示した。
いずれの結果においても,わが国では粒子状物質の長期曝露による肺がん以外の死亡とは正の関連は認められていない。
表1 粒子状物質の長期曝露影響に関する代表的なコホート研究