・4.PM2.5の健康影響:疫学研究
PM2.5の健康影響には,短期曝露(数時間から数日の曝露)と長期曝露(数か月から数年以上)による影響がある。以下,曝露期間とその影響毎に主な疫学研究の報告を整理する。
4.1 長期曝露と死亡の関係
PM2.5の長期曝露影響はコホート研究によって知られるようになった(表1)。
コホート研究とは,特定の要因に曝露した人口集団と曝露していない人口集団を一定期間追跡し,研究対象となる健康影響の発生率(罹患率)を比較して,要因と影響の関連を調べる観察研究のことである。
PM2.5に関して最もよく知られたコホート研究は,ハーバード6都市研究(1993年公表)とアメリカがん協会(AmericanCancerSociety,ACS)研究(1995年公表)である。
これらは大気汚染濃度の異なる地域で10年以上にわたり長期調査が行われ,6都市研究は最も早い時期に低濃度の微小粒子が死亡リスクの上昇に寄与することを示唆し,ACS研究は全米50都市で約30万人を対象に曝露量と反応の関係を示した。
さらにこれらは,当初に発表されたオリジナル研究に加え,追跡期間を延長した拡張研究や,結果の信頼性や妥当性を検証した再解析研究が行われている。
ハーバード6都市研究:米国東部6都市で無作為に選ばれた25~74才の白人8,111人を対象とし,1974年以降14~16年間追跡した前向きコホート研究であり,総死亡,心肺疾患,肺がん,心肺・肺がん以外の死亡とPM2.5の長期曝露との関連が検討された。
オリジナル研究11)では,年齢,性,喫煙,教育,Bodymassindex(BMI)などの因子を調整したところ,PM2.5濃度と総死亡,呼吸器疾患死亡,心肺疾患死亡との間に有意な正の関連が認められ,この結果は世界中に強い印象を与えた。
また再解析12)の結果,循環器(心血管)死亡との関連も明らかになった。
さらにLadenetal.(2006)13)は6都市研究の追跡期間を1998年まで延長し,対象都市で大気汚染レベルが改善していることから,オリジナル研究に相当する1980年から1989年までの期間とそれ以降の1990年から1998年に分けてPM2.5濃度と死亡との関連を評価した。
その結果,PM2.5濃度と総死亡,疾患(呼吸器疾患,心血管疾患および肺がん)の間に正の有意な関連性を認めた。
ACS研究:米国50州に居住する成人志願者を対象とし,1982年に開始した前向きコホート研究である。解析の対象となったのは154都市に居住する約55万人であり,その内151都市の対象者については硫酸塩と死亡との関連,50都市の対象者(295,223人)はPM2.5と死亡の関連について検討された。
1989年までの7年間の追跡によるオリジナル研究15)では,対象者の健康状態,性,年齢,喫煙歴,飲酒歴,職業曝露を調整して解析し,PM2.5濃度と総死亡,心肺疾患死亡との間に関連を認めた。
再解析12)では,職業曝露の補正,曝露データの追加,食事に関連する変数の考慮,喫煙などの個人的なリスク要因の補正,地域を考慮したモデル化などの検討を行った結果,PM2.5濃度と総死亡,心肺疾患死亡,肺がん死亡との関連性を認めた。
2009年に報告された拡張解析Ⅱ18)では,PM2.5濃度の増加に伴う,総死亡,心肺疾患死亡,虚血性心疾患死亡および肺がん死亡の有意な増加が認められている。