2. 残留基準と通知分析法
畜水産食品に対する農薬の残留基準は食肉,牛乳及びイガイにのみ設定されていたが,ポジティブリスト制の施行に伴いこれらの基準に関する通知は廃止され10),新たな基準に取って代わった.
また畜水産食品中の農薬分析法についても,GC/MS及びLC/MSによる一斉分析法が通知された11).
ポジティブリスト施行までに通知された残留基準,分析法についての概要を以下に示す.
食肉の有機塩素系農薬の基準は,1987年の通知3)「DDT等の残留する輸入食肉の流通防止について」で暫定的基準値が設けられた.
輸入食肉に対して,総DDTが5 ppm(脂肪中),ディルドリン(アルドリン含む)が0.2 ppm(脂肪中),ヘプタクロル(ヘプタクロル・エポキサイドを含む)が0.2 ppm(脂肪中)に設定され,同時に分析法も通知された12).
分析法は試料よりアセトン・ヘキサン混液で抽出し脂肪を採り,その一定量をシリカゲルドライカラム及びフロリジルカートリッジカラムで精製し,GC(ECD)で分析しGC/MSで確認する方法で,定量限界は約0.05 ppmである.
試料は部位に関係なく,脂肪中濃度で基準が設定された.
牛乳についての基準は1971年の通知13)「牛乳中の有機塩素系農薬の暫定許容基準について」でβ-BHCが0.2 ppm(全乳中),DDTが0.05 ppm(全乳中),ディルドリンが0.005 ppm(全乳中)で定められた(DDTはDDT,DDD及びDDEの総和,ディルドリンはアルドリンとの総和で算出).
イガイについては,1980年の通知14)「イガイの取扱いについて」でディルドリンの暫定的規制値は0.1 ppmと定められた.
3.残留濃度調査
有機塩素系農薬も,1998年の環境ホルモン戦略計画SPEED' 98の策定で,低濃度の暴露で人体への影響が懸念されるEDCsとしてリストに載ったのを契機に,ルーチン分析よりもさらに低濃度レベルでの残留を把握する必要があった.
そのため,畜産食品を対象に分析法を検討し高感度な定量を可能とし,各食品での残留濃度の調査を行なった.
1) 食肉15,16)
試料の牛肉30検体は2000年,豚肉22検体及び鶏肉20検体は2001年に都内で購入した.
試料からアセトン・石油エーテル混液で抽出後,多孔性ケイソウ土カラムで脱脂操作,フロリジルで精製してGC/MSで測定した.
検査対象化合物はDDT(p,p'-DDT,p,p'-DDE,p,p'-DDD),BHC(α-,β-,γ-,δ-BHC),ディルドリン,ヘプタクロル及びエポキサイドとした(豚・鶏肉では,アルドリン,エンドリンも対象).
定量限界は脂肪中濃度としてα-,β-,γ-,δ-BHC で0.005 ppm,その他の化合物は0.001 ppmである.
調査した牛肉,豚肉及び鶏肉から高い頻度でDDTが検出され,内訳は代謝体のp,p'-DDEがほとんどを占めた.
残留濃度は検出された牛肉で0.001~0.013 ppm,豚肉で0.001~0.006 ppm,鶏肉で0.001~0.012 ppmであり残留基準(DDT:5 ppm 脂肪中)の1/400以下と低い値を示した.
その他にディルドリン,ヘプタクロルエポキシドも検出されたが,検出数と濃度はDDTに比べ低い傾向が見られた.
また,国産と輸入食肉との傾向に大きな差は認められなかった(表1).
著者らが1987年から1990年に行ったオーストラリア等からの輸入牛肉の残留調査4)では,DDTの検出頻度は高く,今回の調査に比べ高い残留濃度(0.05~0.08 ppm:定量限界0.05 ppm)を示した例があった.
また松本ら14)の大阪府における35年間の調査では,DDTは1970年代前半から80年代にかけて5年ごとに残留濃度は1/6に減少したが,それ以降はppbオーダーを示し続けている.