湿疹や蕁麻疹、あるいは鼻詰まりが生じるようなら、「肺陰虚(はいいんきょ)」証です。
肺は五臓の1つで、呼吸をつかさどる臓腑です(「気をつかさどる」といいます)。
また「皮毛をつかさどる」機能もあり、皮膚と深い関係にあります。
さらに肺は「鼻に開竅(かいきょう)する」といい、鼻を肺と関連が深い器官と捉えています。
鼻のことを肺竅(はいきょう)ともいいます。
この肺の陰液(肺陰)が不足している体質が、この証です。アレルギーや嗅覚過敏と関係が深い証です。
虚熱タイプです。
慢性疾患や炎症による津液の消耗などにより、この証になります。
漢方薬で肺の陰液を補い、化学物質過敏症を治します。
めまい、耳鳴り、頭重感、目の痒み、目のかすみ、目がちくちくする、などの症状がみられるなら、「肝陰虚(かんいんきょ)」証です。
肝は五臓の1つで、体の諸機能を調節し、情緒を安定させる働き(疏泄[そせつ])を持ちます。
自律神経系と関係が深い臓腑です。
この肝の陰液(肝陰)が不足している体質が、この証です。
慢性疾患や、ストレス、緊張の持続、激しい感情の起伏などの影響で陰液が消耗すると、この証になります。
虚熱タイプです。
さらに肝陰の不足により肝の機能(肝陽)を抑制することができなくなると肝陽が上昇し、「肝陽上亢(かんようじょうこう)」証になります。
上記の症状のほかに、頭痛、のぼせ、怒りっぽい、などもみられます。
肝の陰液を補う漢方薬で、化学物質過敏症を治療します。
吐き気、胸やけ、口の渇きなどの症状がみられるようなら、「胃陰虚(いいんきょ)」証です。
胃は六腑の1つで、飲食物(水穀)を受け入れて(受納)、消化し(腐熟)、人体にとって有用な物質(水穀の精微)へと変える機能を持つ腑です。
さらに胃は、水穀の精微の残りかす(濁)を下方の小腸や大腸に下降させます(降濁)。
西洋医学的には、胃のみならず、十二指腸、小腸なども、この六腑の胃に含まれます。
そしてこの胃の陰液(胃陰)が不足している体質が、この証です。
陰液不足で乾燥するので口渇が生じ、口の中が粘つく、唾液が少ない、などの症状が表れます。
陰液が少ないために相対的に熱が余り、乾嘔(からえずき)、口臭、胃の鈍痛なども生じます。
飲食物の受納、腐熟、降濁ができないので、おなかはすくけれども食べられない状態にもなります。
虚熱タイプです。
胃の陰液を補う漢方薬で、化学物質過敏症を治していきます。
湿疹が赤く(紅斑)、あるいは化膿し(膿疱)、ときに熱感や疼痛を伴う、など強い熱証がみられるようなら、「熱毒(ねつどく)」証です。
熱毒は、化膿性、あるいは激しい炎症に相当します。
口の渇き、唇の乾燥、発熱、もやもやと落ち着かない不安感や不快感(煩躁)などの症状もみられます。
実熱タイプです。
漢方薬で熱毒を冷まし、化学物質過敏症の治療をします。
■症例1
「新しい家に引っ越してきて以来、体調がすぐれません。のぼせやすく、寝汗をかきます。病院で検査を受けましたが異常はなく、恐らくシックハウス症候群だろうから引っ越すしかない、と言われました」
頭がぼーっとします。
集中力が続かなくなりました。
喉がよく渇きます。
舌は紅く、乾燥しています。
舌苔はほとんど付着していません。
この人の証は、「腎陰虚(じんいんきょ)」です。五臓の腎の陰液(腎陰)が不足している体質です。
陰虚体質であるために微量の化学物質に敏感に反応してしまいます。
頭がぼーっとする、集中力の低下などの症状に加え、のぼせ、寝汗、口渇、紅く乾燥した舌、少ない舌苔などの熱証を伴うのが、この証の特徴です。
めまい、耳鳴り、手足のほてりなどの症状がみられることもあります。
この証の場合は、漢方薬で腎陰を補い、化学物質過敏症を治します。
代表的な処方は六味地黄丸(ろくみじおうがん)ですが、この患者は熱証が強かったので、知柏地黄丸(ちばくじおうがん)を使いました。
3カ月目くらいから症状が緩和されてきました。