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幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
化学物質過敏症に効く漢方(2)
化学物質過敏症によくみられる症例と漢方処方
2018/5/30
■症例2
「目がちくちくするので近所の眼科を受診したところ、似たような症状の人が他にもおり、恐らく郊外にある農薬工場の影響だろうとのことでした」
工場自体は環境に配慮した操業を続けており、国の環境基準も満たしており、問題ないと言われたそうです。
しかし化学物質過敏症の人は、農薬から放散される微量な化学物質に反応して体調を崩すことがあります。
この患者の場合、目の痒み、目のかすみ、めまいもあります。
舌をみると、紅い色をしています。
この人の証は、「肝陰虚(かんいんきょ)」です。
五臓の肝の陰液(肝陰)が不足している体質です。
陰虚体質であるために微量の化学物質に敏感に反応してしまいます。
この証の場合は、肝の陰液を補う漢方薬で、化学物質過敏症を治療します。
代表的な処方は杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)です。
この患者にも杞菊地黄丸を服用してもらいました。
目のちくちくは2カ月くらいで軽減しましたが、目の痒みやめまいがまだ続いていたため、そのまま飲み続けてもらったところ、8カ月ほどでだいぶ改善されました。
■症例3
「病院で化学物質過敏症だと言われました。隣家の衣類の柔軟剤の香りが風に乗って流れてくると、息苦しくなります。動悸がしたり、夜に寝付きにくくなったりすることもあります」
電車に乗っていて、近くにいる人の制汗剤の香りで同じように息苦しくなることもあります。
疲れやすく、汗がじわりと出ることがあります(自汗)。
不安感に駆られることもあります。
舌は白く痩せて乾燥しています。
舌苔は少ししか付着していません。
この人の証は、「心気陰両虚(しんきいんりょうきょ)」です。
五臓の心の機能(心気)と陰液(心陰)が不足している体質です。
陰虚体質であるために微量の化学物質に敏感に反応してしまいます。
息苦しい、動悸、不眠、疲労倦怠感、自汗、不安感、やせて乾燥した白い舌、少ない舌苔などは、この証の特徴です。
めまい、のぼせ、手のひらや足の裏のほてり、口渇、焦燥感などの症状がみられることもあります。
この証には、心気と心陰を補う漢方薬で、化学物質過敏症を治療します。
代表的な処方は、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)です。
この患者は、炙甘草湯を服用し続け、1年後には症状が出なくなりました。
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湿疹、蕁麻疹、鼻詰まりなどが生じる「肺陰虚(はいいんきょ)」証には、肺の陰液を補う麦味地黄丸(ばくみじおうがん)などを使います。
吐き気、胸やけ、口の渇きなどの症状がみられる「胃陰虚(いいんきょ)」証には、胃の陰液を補う麦門冬湯(ばくもんどうとう)などが効果的です。
強い熱証がみられる実熱タイプの「熱毒(ねつどく)」証には、熱毒を冷ます黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などを用います。