・https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/koui/201805/555879.html
幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
化学物質過敏症に効く漢方(1)
化学物質過敏症の考え方と漢方処方
2018/5/8
化学物質過敏症は、衣類の柔軟剤の香りで息苦しくなったり、制汗剤の香りでめまいがしたり、と人工の香り成分などに含まれるごく微量の化学物質の影響で体調不良を繰り返す病気です。車やトイレ、衣類の消臭剤で頭が重くなったり、目がちくちくしたり、電車の中で隣に座った人の香水の香りで鼻水やくしゃみが止まらなくなったりする場合もあります。
湿疹や蕁麻疹、目の痒み、目のかすみ、鼻詰まり、耳鳴り、不安感、不眠、うつ状態、のぼせ、寝汗、吐き気、胸やけ、便秘、下痢、頻尿などの症状もみられます。
原因として、微量物質の毒性、アレルギー、嗅覚過敏が関与していると考えられています。
農薬や自動車の排気ガス、住宅の建材や塗料や接着剤(シックハウス症候群)から放散される化学物質に反応して体調を崩す人も多く、2015年には日本の人口の約7.5%が化学物質過敏症であるとの調査結果も報告されています(「環境中の微量な化学物質による健康影響に関する調査研究業務報告書」より)。
化学物質過敏症に対して、西洋医学には有効な治療薬が少なく、原因とみられる化学物質をできるだけ浴びない、早めにその場を遠ざかる、こまめに換気する、適度な運動をする、ビタミンやミネラル類を十分取る、などの生活改善が治療の中心となっているようです。
湿疹、蕁麻疹、目の痒み、鼻詰まり、不眠、のぼせなど、表れる症状には熱邪(ねつじゃ)に関連するものが多く、漢方では、熱邪を除去するなどして化学物質過敏症の治療をします。
熱邪は病気の原因(病因)の1つで、自然界の火熱により生じる現象に似た症状を引き起こす病邪です。
熱邪には2つのタイプがあります。
熱邪の勢いが盛んになって生じる実熱(じつねつ)と、熱を冷ますのに必要とされる陰液が不足しているために(陰虚)、相対的に熱邪が強まって生じる虚熱(きょねつ)です。
実熱の場合は熱邪を冷まし、虚熱の場合は陰液を補うことにより熱邪を治療するため、漢方では熱邪が実熱か虚熱かによって、処方を使い分けます。
化学物質過敏症は、微量の化学物質の影響で体調不良を繰り返すことや、嗅覚過敏が関与していることなどから、多くの場合、虚熱タイプです。
漢方薬の服用により、人体に陰液が補われると、人体は、良い意味で“鈍感”になり、微量の化学物質に過敏に反応しなくなります。
化学物質過敏症によくみられる証には、以下のようなものがあります。
症状として、のぼせ、寝汗などの熱証がみられるようなら、「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。
腎は五臓の1つで、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、並びに水液や骨をつかさどる臓腑です。
陰は陰液のことで、人体の構成成分のうち、血(けつ)・津液(しんえき)・精を指します。
この腎の陰液(腎陰)が不足している体質が、腎陰虚です。加齢や過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良、性生活の不摂生などによって腎陰が減って、この証になります。
虚熱タイプです。便秘や頻尿がみられることもあります。
この証の場合は、腎陰を補う漢方薬で化学物質過敏症を治します。
息苦しい、不安感、不眠、などの症状がみられる場合は、「心気陰両虚(しんきいんりょうきょ)」証です。
心は五臓の1つで、心臓を含めた血液循環系(血脈)と、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動(神志[しんし])をつかさどる臓腑です。
大脳新皮質など高次の神経系と深く関係しています。
この心の機能(心気)と陰液(心陰)が不足している体質が、この証です。
過度の心労、思い悩み過ぎ、過労が続くと、心に負担がかかり、心気と心陰が消耗してこの証になります。
疲労倦怠感、動悸、息切れ、めまい、不安感、胸苦しい、多汗などの心気虚の症状や、不眠、不安感、のぼせ、手のひらや足の裏のほてり、口渇、焦燥感など心陰虚の症状がみられます。
虚熱タイプです。
漢方薬で心気と心陰を補い、化学物質過敏症の治療をします。