イ 安全配慮義務違反行為
(ア)局所排気装置等設置義務の違反
被告は,ガスクロ検査業務を行っていた1 0 7号室には,局所排気装置等のいずれも設置せず,11.0号室には局所排気装置であるドラフトを2台設置していたものの,2台とも他め労働者が独占的に使用し,原告が使用すると嫌がらせ行為をするなど原告のドラフト使用を妨害してきたのであるから,原告は常時ドラフトを使用できない状況であった。
このような被告の不設置ないし原告が使用できない状況の放置は,局所排気装置等設置義務に違反するものである。
(イ)保護具支給義務の違反
被告は,簡易防臭マスクである「キーメイトマスク」は備え付けていたものの,有毒ガスを防ぐ機能や耐熱かつ耐溶剤の機能を有するマスクや手袋を備え付けなかったのであるから,保護具支給義務の違反があった。
(ウ)作業環境測定義務の違反
被告は,1 0 7号室においては一度も有機溶剤濃度を測定しておらず,110号室においても測定は一度したのみで,さらにその測定結果を改ざんしたのであるから,作業環境測定義務の違反があった。
(エ)外気面積確保義務の違反
1 0 7号室は,窓その他の開ロ部の直接外気に向かって開放することができる部分の面積が床面積の20分の1以上ではなかった。
また,107号室は窓が開閉できず,換気扇も使用できなかった。
110号室も,換気扇が1基設置されているが使用できず,劣悪な作業環境であった。
圀 温度管理義務の違反
1 0 7号室には,狭い室内にガスクロ装置が約30台設置されており,そこから排出される熱によって,室内は常に温め続けられていたため,室内の気温は常に30度を超えており,季節によっては40度を超えることがあったのであるから,温度管理義務の違反があった。
(カ)安全衛生教育義務の違反
被告は,原告に対し,使用する化学物質の有害性や取扱方法など必要な教育をほとんどしなかった。
また,クロロホルムについては,有害性が強いことから,クロロホルムによる健康被害を防止するための指針(なお,同指針は平成23年10月28日に廃止された。)という通達が発せられ,特別な安全教育が求められていたところ,被告は,原告に対し,そのような安全教育を一切しなかった。
剛 貯蔵管理義務の違反
110号室には,液クロ装置から有機溶剤溶液を回収するガロン瓶が設置されていたところ,ガロン瓶には栓や蓋がなく,また,有機溶剤がガロン瓶から溢れていることも頻繁にあったなど,適正な容器を用いていなかった。
また,不要な液体を捨てるポリタンクも設置されていたところ,その蓋は密閉されずに常に漏斗が差された状態のままであった。
原告は,そのような状況の改善を被告に申し入れたが,被告は,上記状況を放置した。
(ク)健康管理義務の違反
原告は,平成11年頃,自己の体調不良及びその原因が職場環境にあることを上長に説明し,配置転換を申し出た。
このような原告の申出に加え,被告は,原告の職場環境が上記のように劣悪なものであることを把握していたこと,平成8年には厚生労働省から『化学物質過敏症に関する研究報告』が出され,化学物質過敏症に関する知見が広まっていたこと及び被告が国内有数の化学品メーカーであることを考慮すれば,被告には,配置転換を行うなどして原告が有機溶剤への曝露によっ七更にその症状が悪化することないように健康管理をすべき義務を負っていたが,被告は原告の上記申出を断り,従前どおりの就労を命じて原告の健康管理を怠ったものである。