6:化学物質過敏症 ―歴史,疫学と機序― | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

3)心身医学的な機序
化学物質過敏症は,多彩な不定愁訴が自覚症状として出現していることから,心身医学的な機序も想定されている。

心因性機序は,原因とされる化学物質との因果関係を説明できるような検査所見や病理学的所見に乏しいこと,既知の精神疾患と類似していることなどが,主な根拠となっている。
Leznoff は,15 名の MCS 患者それぞれに対し,症状が最も現れる誘発物質を曝露し,その前後での肺機能,血中の CO2 と O2 の分圧,O2 飽和度を測定する誘発実験を行った (30)。

その結果,被験者 15 名のうち誘発物質により症状を再現した 11 名全員に過呼吸を伴った急激な CO2 分圧の低下が観察された。

この実験結果から,Leznoff は,MCS 患者は環境汚染物質により不安が引き起こされ,その不安を症状として発現しているのだと考え,少なくとも症状のある部分は過呼吸により引き起こされると結論づけている。

しかし,これは一部の過呼吸をベースとする心因性集団の存在を意味するにすぎず,MCS 患者全体の発症機序を説明する根拠としては不十分と思われる。
一方,MCS の発症には心理社会的ストレスが関与している可能性があり,これまでにいくつかの報告がある。
Freedman は,ストレスを受けることによる心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder: PTSD)の発症機序が MCS にあてはまる可能性を示唆している(31)。

また,Bell らは,女性の MCS 患者とうつ病患者を比較し,MCS 患者において人間関係のストレス(両親との希薄な人間関係など)が認められたことを報告している (32)。
人格傾向や精神疾患傾向を多面的に評価するミネソタ多面人格目録(Minnesota Multiphasic Personality Inventory2: MMPI-2)を使用した研究では,MCS 患者では,発症後に心気症(病気不安症)の割合が高く,病状の進行とともにヒステリーや抑うつ尺度が高くなると報告されている (33)。

一方,我が国においては,熊野らが,パーソナリティーの特徴を,外向性や神経症性を評価するアイゼンク人格質問紙(Eysenck Personality QuestionnaireRevised:EPQ-R),失感情症を評価するトロント・アレキシサイミヤ尺度(The twenty-item Tronto AlexithymisaScale-Revised: TAS-20R),心身症などを評価する身体感覚増幅尺度(Somatosensory Amplitude Scale: SSAS)を用いて研究を行っているが,化学物質過敏症患者群と対照群とのあいだに統計学的に有意な差は認められなかったと報告している (34)。
筆者らは,九州内電子部品製造工場で働く従業員 667名を対象として,QEESI を用い,日本人に適したカットオフ値として提案されている北条らの基準 (23) によって定義された「化学物質高感受性集団」とパーソナリティーとの関連について共分散構造分析を用いて検討した(論文執筆中)。

パーソナリティーは気質性格検査(Temperament and Character Inventory: TCI)を用い,仕事の疲労度等についても質問紙を用いて調査を行った。
Cloninger の理論によれば,パーソナリティーは生まれつき持っている「気質(Temperament)」と後天的に獲得していく「性格(Character)」二つに分けて評価できるとされる。

本研究の結果,「気質」ではなく,「性格」が直接的に「化学物質高感受性集団」に有意に影響していた。

また,疲労蓄積度に関して,勤務状況は「化学物質高感受性集団」に影響しなかったが,ストレスの自覚症状は「化学物質高感受性集団」に強く影響を与えていた。

基盤となるパーソナリティーやパーソナリティーの病的な変化に関する研究は十分ではなく,今後も調査を継続していく必要を感じている。

 

runより:さすがに長過ぎると思うので今日はここまでにします。

半分は過ぎているのであと3記事くらいで終わると思います。