5:化学物質過敏症 ―歴史,疫学と機序― | 化学物質過敏症 runのブログ

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4.化学物質過敏症の発症機序
化学物質過敏症の発症機序については諸説ある。

これまでのところ,曝露量や用量-反応関係を基盤とした中毒学の考え方で,化学物質過敏症の機序を論理的に説明することはできない。

誘発試験においても,化学物質過敏症患者は,異なった化学物質に対し異なった反応性を示さないこと,そして,プラセボを用いた曝露試験でも重度の反応が認められることから,化学物質の生物学的な性質が化学物質過敏症を引き起こしているとは考えにくい。
しかし,患者の存在を否定するものではなく,中毒学的機序では説明できない 

1)神経学的機序,

2)免疫学的機序,

3)心身医学的な機序,そして化学物質に対する特異的な体質とも表現すべき 

4)化学物質高感受性集団の存在を想定している。以下に,これらの仮説について紹介する。
 

1)神経学的機序
Miller は①化学物質の毒性により惹起される化学物質への耐性の喪失(Toxicant-induced loss of tolerance: TILT)と,②その後の微量化学物質曝露による症状の発現,という 2 段階のプロセスを述べている (25)。

また,Bellらは神経系変化による症状形成の過程の観点から,キンドリング(Kindling)や時間-依存性感作(Time-dependentsensitization)などの仮説を提唱している (5)。

キンドリングとは,初めは何の変化も起こさないような弱い電気刺激,または化学物質による刺激を毎日繰り返し与えつづけると,10 日間から 14 日間後には激しいてんかん様けいれん発作を起こすようになる現象をいう。

キンドリングは,けいれん発現閾値量以下の薬剤を投与することでも成立し(化学キンドリング),この場合,神経系に明らかな病理学的障害が認められない。

キンドリングが,MCS の特徴である微量化学物質への高感受性と,身体的検査所見に異常が認められないという点で一致することから,可能性のある仮説の一つとされている (26)。
時間-依存性感作とは,薬理学的あるいは心理的な刺激やストレスに曝露されると,その刺激やストレスに対する感度が徐々に亢進する現象をいう。

この仮説は,化学物質過敏症の微量化学物質への慢性曝露による過敏性の獲得という過程に類似しており,多臓器にわたる症状や時間依存的な感受性の亢進をうまく説明している (27)。
 

2)免疫学的機序
アレルギーは,生体が原因物質(抗原)により感作され抗体が産生された後に,再び刺激物(抗原)が進入した際に免疫系が異常反応する現象である。

化学物質過敏症では,化学物質に対する過敏性を一度獲得すると,その後,ごく微量の化学物質に曝露しただけで臨床症状が発現することが大きな特徴である。

この特徴は,抗原に対する過敏性を獲得(抗体産生)すると,再び抗原に曝露した際に臨床症状が発現するというアレルギーの特徴に似ている。

発症機序の解明が進んでいるアレルギーの場合は,IgE 抗体の増加やそれに伴うインターロイキン等のサイトカインの上昇,ヒスタミンの過剰放出などの客観的指標が存在するが,化学物質過敏症には,現時点ではこれに相当する指標はない。

これまでに免疫学的異常に関する MCS(or 本態性環境不寛容状態と記載)の報告 (28) や,種々の抗原に対する皮内テストに対して陽性を示す化学物質過敏症患者の存在も報告されている(29)。

しかし,統計学的な有意性に関する言及がなく,適切な対照群の欠如など,研究デザインに問題があり信頼性に欠けている。

また,化学物質過敏症の場合,原因物質を特定するには,化学物質等を可能な限り除去した環境下(クリーンルーム)での負荷試験が必要となる。
こうした施設を備えることは一般的な医療機関や研究機関では困難であり,原因物質の特定は難しい。