14. おわりに
EDC は組織や器官の発達と機能に干渉する力があり、したがって生涯にわたり種々の疾病に対する脆弱性を増大させる可能性がある。
これは全地球的な脅威として解決を必要とする。
進歩
多数の非感染性疾患が発達過程に原因を持ち、遺伝的背景に環境要因が干渉する結果として各種の疾病や障害への脆弱性が高まることが理解され始めている。
発達期間内の EDC 曝露が内分泌系疾患の重要な環境的リスク因子の一つであることも明らかである。
またヒトはおそらく数百種に上る環境化学物質に常時曝されていることも明らかになっており、曝露されていない集団は事実上地球上のどこにも見出されない。
EDC が重要な役割を演じていると思われる内分泌疾患が世界的に増加傾向にあり、将来の世代にまで影響が及ぶ可能性もある。
EDC に関する理解の進展は主として先進地域の研究から得られた情報に基づいている。
現在でも 2002年当時と変わらず多くの地域、特にアフリカ、アジア、中南米におけるデータが大きく欠如している。
将来の必要事項
発達期の曝露を低減させ発病を防止するためには、EDC がいつ、どのように作用するかの知識を深めることが必要である。
曝露防止による一次予防の成功の好例は鉛である。現在の知識を活用して、環境に起因する疾病の防止を通じてヒトと野生動物の健康を改善するため、以下に述べる事項が必要と考える。
A. EDC に関する知識を増進すること:動物モデルであれヒトであれ野生動物であれ、現在採用されているアプローチは一度に 1 種の化学物質、1つの疾患、1つの曝露量を対象とするものであるが、このような細切れの方法を超えることが極めて重要であり、ヒトや野生動物が混合物質に曝露されたときの影響を理解することの重要性がますます高まっている。
EDC の作用の評価においては、攪乱される内分泌系の特徴、たとえば各組織の特異性や曝露に敏感な時期などを考慮しなければならない。
低曝露量あるいは非単調な濃度応答曲線の重要性については様々な見方があるが、この問題は現行の試験方法がEDCの特定に十分かどうかを判定する上で重要である。
内分泌関連の疾病や障害の増加の原因物質を特定するためには、野生動物・実験動物・ヒトの研究から得られた知識を総合する学際的努力によって、より全体論的なアプローチを可能にすることが望まれる。
多くの曝露評価や内分泌攪乱性の試験はこれまでハロゲン系物質に大きく偏っているので、問題となる物質の分子構造や物性を既知の EDC が代表していない可能性があり、他の EDC を特定するための研究が必要である。内分泌攪乱はエストロゲン、アンドロゲン、および甲状腺経路に限られない。
化学物質は代謝、脂肪蓄積、骨の発達、免疫系などにも干渉するから、内分泌系全体が EDCの影響を受けると考えられる。このような知見を総合して考えれば、正常な内分泌機能に EDC がどのように作用するか、曝露時期が発症率にどのように影響するか(特に小児呼吸器疾患に関して)、またそのような影響がどのおように次世代に伝えられるかを解明するために、内分泌系の理解を深めることが喫緊の課題である。
更に、一度に 1 つの EDC を取り上げるだけでは、複数のEDCへの同時曝露のリスクを過小評価するおそれがあり、EDC 混合物が疾病に対する脆弱性や病因に及ぼす影響を検討するための新しいアプローチが必要とされる。
ヒトの健康への EDC の影響の評価には、混合物質への曝露と 1 つの疾患との関係も、1つの物質への曝露と複数の疾患との関係も含めなければならない。
ヒトに関する研究は重要ではあるが因果関係を示すことはできないので、動物実験による因果関係の解明によって補強することが重要である。
B. EDC 試験法の改良:各国でスクリーニングおよび試験方法の開発と検証がなされているが、これらの適切性を確認するには多大の時間と労力が必要である。
これらの方法に含まれるエンドポイントには in vitro も in vivo もあり、取り上げられる種も魚類、両生類、哺乳類など多様である。
多数の invitro 試験を高速処理することで毒性を予測する新しいアプローチも研究されており、その結果を危険性の同定やリスク評価に利用することが考えられる。
情報のない化学物質が多数あることを考えればこのようなアプローチは重要であり、高速試験によって完全ではないとしても重要な情報が得られる可能性がある。
また別の前進が要求される事柄として、過去 10 年間に或る種の化学物質と内分泌系との相互作用の複雑さが明らかになったことが挙げられる。
このような相互作用は現行の検証済み試験法では検出できない可能性がある。
最後に、in vitro の機構的データからヒトに関する疫学データに至るすべてのレベルを有意義に考慮するため、証拠の重み付けを含むアプローチを開発することも重要であろう。