11:WHO:内分泌攪乱化学物質の科学の現状 | 化学物質過敏症 runのブログ

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12. 過去の教訓
社会はどのようにして、我々および次世代の健康をEDC の作用から守ることができるであろうか。

過去から学べる有用な教訓はないであろうか。
一つの選択肢は、毒性や病原性を持つ化学物質を禁止することである。

過去 40 年の間に多くの国で禁止された物質は、鉛、POP、トリブチル錫、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、ノニルフェノール、クロルピリホスなど限られたものにすぎず、しかも禁止が特定用途に限られている場合も少なくない。

しかしそれでも、これらの物質の使用量が減少したことで、ヒトと野生動物の健康に明らかな改善がもたらされている。
積極的な対策の最良の実例の一つは、米国で 2000年に有機リン系農薬クロルピリホスの住居での使用を禁止したことである。
クロルピリホスは小児の発達遅滞、注意障害、ADHDなどを惹き起こす強力な神経毒性を持つことが証明されており、現在では住居で使用される製品の製造は世界的に中止されているが、商用作物としての果実や野菜の殺虫剤としてはなお使用されている。

しかし米国で住居での使用が禁止されてから、ニューヨーク州での小児の血中濃度は1年で顕著に低下し、2 年で半分以下となった。
トリブチル錫も興味ある事例である。

トリブチル錫は軟体動物の生殖に悪影響を及ぼすため、船底塗料への使用が禁止された。

トリブチル錫の使用量の減少した港湾では環境中濃度が低下し、そこに生息する動物への内分泌攪乱作用も減少した。

しかし各種作物用の殺菌剤として、および PVC 樹脂の成分としての有機錫化合物の使用は依然として継続している。
PCB や DDT などの POP は、環境残留性および毒性のため 20 年以上前に多くの国で禁止された。そのためヒトでも野生動物でも、これらの物質の体内濃度は低下している。

北米とヨーロッパで高レベルのDDT およびその難分解性代謝産物である DDE に曝露された鳥の個体数を1950~1970年について見ると、1975 年以降 DDE, DDT 濃度が低下すると共に明らかな回復が認められる(図 22)。

しかしこれら物質の使用禁止後もそれらの分解生成物が長く残留するため、現在の低レベルでもなお有害作用が発生しているとの報告も存在する。
鉛は毒性データの存在にも関わらず放置したためのコストを示す重要な例である。

鉛が神経毒性を持つことはローマ時代から知られていたにも関わらず、全世界でガソリンや塗料に使用されていた。

鉛は骨や脳の組織の発達期に不可逆的な影響を及ぼすので、小児への影響は特に重大である。
中でもガソリンへの使用は最大の影響をもたらし、世界の数百万人の小児の知能指数が5ポイント低下したと推定されている。
ガソリンへのテトラメチル鉛の添加の禁止には、代替品が利用できるようになるまで数十年を要した。
米国での禁止の結果、小児の鉛レベルは劇的に低下し、禁止措置がヒトの健康状態の改善に大きく寄与することを示している(図 23)。
これは成功例ではあるが、科学的データは政策が変更され物質の使用が禁止されるより遥かに前から存在していたのであり、その間にも小児の健康は害され続けたのである。

そこで、行動を起こすに十分なデータはいつ揃うのかが問題となる。

その答えはおそらく、不完全ではあっても注目すべきデータが存在するときには、重大な長期的障害が発生する以前に、予防原則を今以上に活用して化学物質の使用を制限ないし禁止し、早期の曝露を低減することであろう。
図 23:ガソリンへの鉛の使用禁止が小児の血中鉛濃度に及ぼした影響(米国国民健康栄養調査のデータによる)