10. 氷山の一角
数十万種に上る合成化学物質のうち、内分泌攪乱作用の評価がなされているのはごく一部であり、また消費者製品に含まれる物質には製造者が開示していないものも多くあるため、我々がこれまで見たものは氷山の一角にすぎない。
EDC は何種類あるのか、その由来は何か、ヒトや野生動物の曝露の程度はどうか、発達期・小児期、更には世代間のそれらの単独および混合物での影響はどのようなものか、作用機序はどのようなものか、EDC の試験方法を改善する方法は何か。これらの問すべてにこれから答えなければならない。
11. EDC の試験
疫学的研究によりヒトの疾病エンドポイントと EDC曝露との関係を示すデータが得られているので、現在の曝露レベルで内分泌系疾患または障害が発生していると考えてよい。
換言すれば、個々には安全なレベルのEDC曝露も全体としては有害なレベルに達しているか、または安全と考えられてきたレベルが実はそうではないということである。
検証済みのガイドラインに従って化学物質の内分泌攪乱性を試験する場合、3 つの曝露量水準を用いて、測定可能な影響の出ない濃度を決定するのが慣例である。
このいわゆる無毒性量を安全係数(たとえば 100)で割ることで、ヒトまたは野生動物に対して安全と期待できる濃度を外挿する。
すなわち安全とされた曝露量では実際の試験はなされておらず、また混合物の試験も行われていない。
またこのような研究ではEDCの影響に閾値が存在すること、低曝露量では影響がないこと、濃度応答曲線が右上がりであることを仮定している。
しかし前述したように活性ホルモン経路の存在により、EDCの影響には閾値は存在せず、低濃度でも影響を生ずる可能性がある。
したがって濃度応答曲線も必ずしも濃度に対して比例的とは限らない。
規制ガイドラインによる試験はまた組織病理学を重視し、器官重量および体重をエンドポイントとしているが、前述のように EDC は多数の疾病の原因となり、現在規制のための試験では評価されていない各種の疾病エンドポイントに影響を及ぼす。
リスク評価のアプローチにおいても、EDC の作用に最も敏感な発達期における毒性を必ずしも評価しておらず、また曝露によって惹き起こされる疾病の評価に必要な、動物の障害にわたる観察も行っていない。