9. 内分泌攪乱物質の発生と曝露
2002 年以降、POP 以外の多数の化学物質が EDC であると認められてきた。
その中には物性、発生源、環境内での運命がPOPとは全く異なるものも含まれている。
EDC には天然物も人工物もあり、極めて多様な材料・製品・物品に含まれているものもある。
また製造工程や廃棄物焼却から副産物として発生する EDC もある。
更に、これらの物質が生物学的・環境的な転換を受けて別の EDC が発生することもある。
POP、現用の農薬、植物エストロゲン、金属、医薬品活性成分、食品・パーソナルケア製品・化粧品・プラスチック・繊維製品・建材などの添加材または不純物等々、様々な種類の物質の中に EDC が見出されている。
難分解性の物質は環境中に放出されると風や水流によって遠隔地まで運ばれ、しばしば食物連鎖を通じて生体濃縮され、ヒトその他の上位捕食者は高濃度に曝露されることになる。
あるいは環境中での寿命は短くても農業廃水や都市廃棄物などとして恒常的に放出されるため、放出源付近での濃度が高いものもある(図 16)。
図 16:EDC の環境への放出源には一点も不定形もある。
EDC への曝露経路はヒトと野生動物では種々の点で異なっている。
野生生物にとっての EDC 曝露源は空気、水、土壌、堆積物、食餌である。
ヒトは食物・水・塵埃の摂取、空気中のガスや粒子の吸入、および皮膚吸収を介して EDC に曝露される(図 17)。
母体から胎盤を通じて胎児へ、母乳を介して子へのEDC の移行は野生動物でもヒトでも起こる。小児は手と口の接触が多いため EDC への曝露量も多くなる。
このように多様な EDC に対して種々の曝露経路が存在することは、ヒトも野生動物も複雑な EDC 混合物に曝露されていることを意味する。
現時点では数百種に上るEDCの低濃度混合物への曝露がどのように健康に影響するかを示すデータはないが、動物実験によればEDC混合物への曝露が加成的効果を持つことが明らかである。
各物質が単独では影響しないような低濃度であっても、加成的効果は現れるので、多くの化学物質が個別には影響のないレベルで協働して健康問題を惹き起こす可能性がある。
ヒトおよび野生動物の体内における環境汚染物質は、北極圏などの遠隔地も含めて、全世界的に数百種が測定されている。
ヒトおよび野生動物中のEDC の濃度は地域によって異なり、あるものは都市部、高度に工業化された地域、または電子廃棄物処分場付近などで高く、またあるものは大気や海流による輸送や食物連鎖による濃縮のため遠隔地で高くなっている。
図 17:EDC は種々の発生源から摂取・吸入・皮膚吸収により人体に取り込まれる。
図 18:EDC は世界の野生動物に見出されている。
この図は海洋性哺乳類の肝臓中のペルフルオルオクタンスルホン酸(PFOS)の濃度(ng/湿重量 g)を示す(Houde et al., 2011 より改変、許諾済)。
野生動物の曝露の例を図 18、19 に示す。
環境汚染物質の存在しない原始の地域はもはや存在しない。
また体内の化学物質濃度はその使用傾向と密接に関係しており、使用禁止あるいは制限によってヒトあるいは野生動物の体内濃度が減少した例も見られる。
実際、多くの POP のヒトおよび動物の組織中の濃度が、世界的な使用禁止に続く使用量減少に伴って低下しているのに対して、現在でも多く使用されているEDCはヒトでも動物でも高い濃度を示している。
図 20 に示すように、生産量と曝露量が密接に関係していることは注目に値する。
市販されている化学物質のうち数百種が内分泌攪乱作用を持つことが知られている。
同様の可能性を持つ他の数千種の物質はまだ調査も試験もされていないが、それらが野生動物やヒトの EDC 曝露に寄与している可能性は十分にある。
この状況を図 21に示す。
市販されている化学物質のうち、内分泌攪乱作用の試験がなされているのはごく一部であり、同じ性質を持つものは他にも多くあると思われる。
更に、EDC の代謝産物あるいは環境中で転換されて生じた物質、廃棄物処理により生ずる産物ないし副産物はこの推定には含まれておらず、それらの内分泌攪乱作用はほとんど不明である。