8. 内分泌攪乱物質の作用の感受期:曝露の時期
ホルモンも、ホルモン作用を改変する EDC も、胎児の発生から始まって幼児期、小児期、思春期、成人期を経て老年期に至る全生涯にわたって作用する。
ホルモンまたはEDCの効果のおおきさは作用のタイミングに左右されることが多い。
成人ではホルモンも EDC も、存在する間は作用するが、除去されると効果は減衰する。
これは血糖値が高いときインスリン濃度が上昇し、低くなると低下するのと同様である。
これに対して、発達期(胎児期、乳児期、ヒトの場合は小児期初期まで)のホルモンまたは EDC への曝露は、組織の発達中に起こった場合は恒久的な影響を持つことがあり、その結果は数十年後になって初めて明らかになることも少なくない。
このような効果は発達プログラミングと呼ばれる。
ホルモンは、受精卵から完全に発達した胎児に至るまでの期間に、組織の正常な発達を調節する。
脳や生殖系などの組織は生後も発達を続けるので、これらの組織の感受期は長く、生後数十年に及ぶこともある。発達中の組織はホルモンや EDC に対する感受性が高い。
EDC 曝露が特定の組織の発達に影響することで、その後の疾病に対する脆弱性が増大するが、そのメカニズムの解明は始まったばかりである。
細胞が分化して組織や器官に発達する過程でホルモンが重要な役割を演ずることは明らかである。
図 14:EDC への早期曝露の影響は生涯にわたって出現する可能性がある。
図 15:EDC への早期曝露に起因する潜在的疾患・傷害の例
EDC 曝露が特定の組織の発達に影響することで、その後の疾病に対する脆弱性が増大するが、そのメカニズムの解明は始まったばかりである。
細胞が分化して組織や器官に発達する過程でホルモンが重要な役割を演ずることは明らかである。
組織や器官が完全に発達して活動を始めると、ホルモンはその役割を変えて、組織・器官のシステムが交換する信号の統合を制御し、正常な機能を維持するように働く。
このように発達初期(ホルモンが細胞から組織・器官への変化を制御している時期)は EDC の作用への感受性が極めて高い時期である。
組織の発達プログラミングの過程で EDC が存在すると、正常なホルモンレベルが乱され、組織の発達に変化が生ずる。
その結果は一生涯、たとえば疾病への敏感さとして残るかもしれない。このような影響は出生時には明らかでなく、出生後数カ月ないし数十年して初めて現れてくるであろう(図 14、15)。
この発達への影響からわかる重要なことは、赤ん坊や子供は小さい大人ではないということである。
EDC には世代を超えて作用を及ぼすものもある(継代効果)。
これは妊娠中の女性や野生動物の曝露が、直接の子だけでなく、その後の数世代にわたって影響を及ぼすことである。
したがって今日見られる発症率の増加の一部は、我々の祖父母の代の EDC 曝露の結果である可能性がある。
またそのような効果は、変化したプログラミングの継代的な遺伝と曝露の継続によって、世代の経過と共に増加することが考えられる。