4:WHO:内分泌攪乱化学物質の科学の現状 | 化学物質過敏症 runのブログ

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3. 内分泌系と内分泌攪乱
この報告書では、内分泌攪乱に関する IPCS (2002)報告書に用いられた内分泌攪乱物質の定義(別項参照)を採用した。

簡単に言えば、ホルモンの正常な作用に干渉する化学物質またはその混合物が内分泌攪乱物質である。
内分泌攪乱を理解するためには、内分泌系の概要を知っておく必要がある。

内分泌系は相互作用する多くの組織から成っており、それらは相互に、また身体の他の部分との間で信号を交わしている。

この信号を媒介するのがホルモンと呼ばれる分子である。
図 2 にヒトの免疫系の図解を示す。

 

内分泌系は、発達期における細胞の分化や器官形成などの初期の過程から成人期におけるほとんどの組織や器官の機能まで、極めて多数の過程を制御している(図 3)。

ホルモンは内分泌腺によって形成される分子で、血液により移動し、通常はホルモン受容体を含む複雑な信号経路を介して、離れた細胞や組織に作用する。

人体には 50 種を超えるホルモンおよびホルモン関連分子(サイトカイン、神経伝達物質)があり、生涯にわたって異なった組織および器官の統合と制御を行い正常な身体機能を維持している。これは野生動物でも同様である。ホルモンおよびその信号経路がすべての組織や器官の正常な機能のために重要であることは脊椎動物でも無脊椎動物でも同様であり、しばしば種の境界を越えた類似性を示す。
図 2:内分泌系の概観。内分泌腺および産生されるホルモンの例を示す。
EDC の定義 (IPCS, 2002)


「内分泌攪乱物質とは、内分泌系の機能を改変し、それによって健全な生物体またはその子孫または(下位)個体の健康に悪影響を及ぼす外因性物質またはその混合物である」
「潜在的内分泌攪乱物質とは、健全な生物体またはその子孫または(下位)個体において内分泌攪乱を惹き起こすと予想される性質を持つ外因性物質またはその混合物である」

図 3:発達における感受期。発達において各組織はそれが形成される固有の感受期を持つ。これは同時に EDC の影響を受けやすい時期でもある。いくつかの組織は出生後も幼児期・小児期に至るまで発育を続けるため、曝露によりプログラミングに影響を受ける期間も長くなる。
図 3:発達における感受期。発達において各組織はそれが形成される固有の感受期を持つ。これは同時に EDC の影響を受けやすい時期でもある。いくつかの組織は出生後も幼児期・小児期に至るまで発育を続けるため、曝露によりプログラミングに影響を受ける期間も長くなる。

表 1:ホルモンと内分泌攪乱物質の作用の比較

図 4:ホルモン作用
の例。多くのホルモンは特定の受容体(2)と結合して、組織の機能を制御する新しい蛋白質(6)の合成を刺激する こ と で 作 用 する。膜上の受容体を介して作用するホルモンもあり、この場合は作用がよ り 直 接 的 で ある。


内分泌攪乱物質は、ホルモンの作用に何らかの形で干渉し、内分泌機能を改変してヒトおよび野生動物の健康に有害な影響を及ぼす化学物質である。
ホルモン系全体が EDC の影響を受ける可能性があると考えられ、生殖器の発達と機能を制御するものから代謝や満腹を調節するものにまでわたっている。

これらのシステムが影響を受けると、結果として肥満、不妊ないし出生率の低下、学習・記憶障害、成人発症の糖尿病または心臓血管系疾患、その他各種の疾病が生じ得る。

脂肪形成や体重増加を制御するシステムがEDC に影響される可能性が知られたのは最近のことで、このように数年前には知られていなかった EDC の影響があることは生理学的システムの複雑さを示す好例である。
化学物質がホルモンの作用を攪乱する経路は一般的に言って 2 種類ある。

すなわちホルモン-受容体複合体への直接作用と、ホルモンを適切な場所へ適切なタイミングで供給する過程を調節する特定の蛋白質への直接作用である(図 3)。

EDC はホルモンと同じ特徴を持ち(表 1)、ホルモンで調節されるすべての過程に干渉することが多い。

内分泌攪乱物質のホルモン受容体への親和性は必ずしもその効力を示すものではない。
ホルモン系における化学的効力を決定する要因は多様である。
このように EDC はホルモンと同様に作用する。ホルモンが極めて低濃度でも受容体と結合して作用する(図 4)のと同様に、EDCも低濃度で影響を及ぼす能力を持ち、現在のヒトや野生動物の曝露量でも十分である。

EDC が影響するのはエストロゲン、アンドロゲン、胸腺ホルモンの作用に限らない。複数の受容体と同時に相互作用するものも知られている。

複数の EDC が共に作用することで、単一の EDC では見られない相加的あるいは相乗的作用を発揮することもある。

また EDC は様々の生理学的過程において各組織に固有な作用を示し、非単調(非線形)の濃度・効果曲線に従うこともある。
実際、ホルモンの場合と同様に EDC についても、高濃度効果の外挿によって低濃度効果を求めることは不可能なことが多い。

曝露のタイミングも重要であり、発達期の曝露は不可逆的な影響を及ぼす可能性が高いのに対して、成人後の曝露効果は EDC を除去することで消失するように思われる。

内分泌攪乱作用への感受性は組織の発達期において最も高い。EDC 作用が疑われる物質の毒性評価においては、このような EDC の特徴を考慮することが重要である。