3:WHO:内分泌攪乱化学物質の科学の現状 | 化学物質過敏症 runのブログ

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●最近数十年間における罹病率の増加速度は、遺伝的要因だけでは説明がつかない。

環境その他の非遺伝的要因、たとえば栄養、出産年齢、ウイルス性疾患、化学物質への曝露なども影響しているが、特定することは困難である。

しかし下記のように、ある程度の関係は明らかになりつつある。
○男児の停留精巣は、妊娠中のジエチルスチルベストロール(DES)、多臭化ジフェニルエーテル(PBDE)への曝露、あるいは農薬への職業的曝露と関係づけられる。

また最近では鎮痛剤パラセタモールとの関連の証拠も見出されている。

しかし多塩化ビフェニル(PCB)、ジクロロジフェニルジクロロエチレン(DDE)あるいはジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)と停留精巣との関連を示すものはほとんどない。
○多塩化ダイオキシンおよびある種のPCBへの大量曝露は(解毒酵素を持たない女性の場合)乳癌の危険因子である。

天然および合成エストロゲンへの曝露も乳癌と関係づけられているが、エストロゲン様の環境化学物質については同様の証拠は得られていない。
○前立腺癌のリスクは、農薬(種類不明)、ある種の PCB、ヒ素への職業的曝露に関係づけられている。

疫学的研究の中には、カドミウム曝露と前立腺癌とを関係づけているものもあるが、その関連性は強くない。
○脳の発達に悪影響を及ぼす発達神経毒性は PCBと関係づけられる。

注意欠陥多動性障害(ADHD)が有機リン系農薬に大量曝露されたグループで増加している。

その他の化学物質についてはまだ研究がない。
○農薬散布作業者とその妻に甲状腺がんのリスクが高まっていることが認められている。

ただしこれに関わる農薬の種類は特定されていない。
●以下に示すように、EDC への曝露と内分泌系疾患との関連については著しい知識ギャップがある。
○妊娠の有害転帰、胸部の早期発達、肥満、糖尿病などとEDC曝露とを結びつける疫学的証拠は極めて乏しい。
○EDC 曝露と子宮内膜癌・卵巣癌との関係についてはほとんど情報がない。
○胎児発達期における PCB への、あるいは幼児期におけるダイオキシン類への事故による大量曝露は成人後の精液品質の低下のリスクを高める。

しかしこの研究を別とすれば胎児期の EDC 曝露と成人後の精液品質に関する情報を含むデータは存在しない。
○胎児期の EDC 曝露と 20~40 年後の精巣癌のリスクとの関係の可能性を追及した研究は存在しない。
●ヒトおよび野生動物の内分泌障害が化学物質へ
の曝露の影響を受けることは、多数の実験室的研究によって支持されている。

EDC への曝露に対して最も感受性の強い時期は、胎児発達期、思春期など発達における重要な時期である。
○発達期の曝露は、出生異常のように明白ではないものの、生涯を通じての発病率の増加を招くような恒久的変化を引き起こす可能性がある。
○動物を用いた内分泌攪乱物質の研究で得られたこれらの知見は現行の毒性試験およびスクリーニングの方法にも影響を与える。

成体の曝露のみでなく、胎児発達期、周産期、幼若期、思春期など敏感な時期における曝露の影響を入念に検討する必要がある。
●内分泌系の疾患および障害の環境的原因に関する有効な研究は世界的に見ても成功していない。
○保健医療精度には、内分泌障害に対する環境的危険因子に対応する機能が欠けている。

それらの疾病または障害に対する一次予防措置を講ずることで得られる利益もほとんど現実化されていない。

○したがって、最近増加しており懸念されている他の EDC も、野生動物個体数減少の原因と考えてよい。

他の環境的ストレッサーの影響下にある野生動物は特に EDC 曝露の影響を受けやすい。
●現在国際的に合意され検証されている内分泌攪乱物質の同定方法では、既知の内分泌攪乱効果の中でも限られた範囲しか検出できない。

したがってヒトや野生動物に対する悪影響で見逃されているものがある可能性は大きい。
○内分泌攪乱効果には、科学的手段や実験室的方法が存在するにも関わらず、合意・検証された試験法が存在しないものも少なくない。
○ヒトの健康に対する影響の多くに対して、女性生殖障害やホルモン性癌などのように、確実な実験室的モデルが存在しない。

このためリスクの全体的な理解が著しく妨げられている。
●EDC による疾患のリスクが大きく過小評価されている可能性がある。
○1 つの EDC を 1 つの疾病と結びつけることにのみ注目することは、混合 EDC による疾病リスクを大きく過小評価することになる。

周知のとおりヒトも野生動物も同時に多くのEDCに曝露されているのであるから、EDC 混合物への曝露と疾病または障害との関係を検討する方が生理学的に有意義である。

更に 1 つの EDC への曝露が症候群や複数の疾病を惹き起こす可能性も高いが、これについては十分な研究がなされていない。
●多様な手段によって曝露を減少させることは重要な重点施策の一つである。

曝露減少のための政府による対策は、限られたものであるとはいえ、特定のケースでは有効であったことが確認されており(たとえば鉛、クロルピリホス、トリブチル錫、PCB、その他数種の POP の禁止ないし制限)、ヒトにおいても野生動物においても異常発生件数の減少に役立っている。
●EDC に関する我々の理解は相当に進歩したとはいえ、まだ無視できない大きな不確実性や知識ギャップが残っており、公衆や野生動物のより有効な保護のための障害となっている。

ヒトおよび野生動物の健康状態の悪化や、野生動物の個体数の減少における EDC の役割を正確に知るためには、総合的な国際協力が必要である。