Ⅰ 対象と方法
対象は,2008 年 8 月~10 月に群馬県 X 医院を,原因不明の体調不良を訴え受診した 33 人。農薬の環境被曝の既往がある症例は除外した。
全例,インフォームドコンセントを得て,初診時の随時尿を採取し,イオンクロマトグラフィー(IC)法により 6CNA の分析を行った。
同時に 12 項目の問診(頭痛,全身倦怠感,胸痛,動悸,肩こり,筋痛,咽頭痛,腹痛,吐き気,便秘,下痢,睡眠の異常)と医師による診察,体温測定,心電図測定,発症時期および発症に先立ち摂取した食品の聞き取り調査を行った。
24 時間以内に発症したと答えた患者 11 人について,初診時に加えて再診時の随時尿を採取し,IC 法で6 CNA を分析した。
6 CNA が 1 検体以上検出された個人の全検体を,液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS 法)で分析した。
1.尿中 6-クロロニコチン酸(6 CNA)分析 尿検体は,採取後番号化し,院外の施設で 1/2の濃度に純水で希釈し,フィルター(sartoriusVIVASPIN6,分画 3,000)で濾過した後冷凍し,別施設の研究者のもとに送った。
2.イオンクロマトグラフィー法(IC 法)
尿検体は,蛋白質を除去するために限外濾過(Nanocep 3K ultrafiltration device, ポ ー ル 製 )を行った後,分析までの間-20℃で凍結保存した。
イオンクロマトグラフ(DIONEX ICS-2000)の構成としては,分離カラムは IonPac AS-16 を用い,溶離液は 35 mM KOH を 1mL/min の流量で使用した。
検出器には電気伝導度計を用いたが,バックグラウンドを下げるためにサプレッサー(ASRS-ULTRAII)を使用した。
6 CNA の検出限界 20 μg/L 以上の濃度を示した検体(当初 2 倍希釈しているため,40 μg/L 以上)を陽性と判定した。
6 CNA の標準溶液を用いて行った濾過試験では濃度の減少は認められず,濾過膜による吸着は無視できると判断した。
6 CNA 陽性と判定されたサンプルに関しては標準物質を添加したうえで再分析を行い,6 CNA とみられるピークの高さが変化することを確認した。
3.液体クロマトグラフィー質量分析法 (LC/MS法)
尿試料約 500 μL を,ナノセップ限外濾過デバイス 3K を用い,冷却遠心機 5415R(エッペンドルフ製)により 14 , 000g,4℃で 8 分間限外濾過を行った。
LC/MS の構成は,LC に Alliance2695(ウォーターズ製),MS:microZQ(ウォーターズ製)を使用した。
LC の分離条件は,カラムとして Symmetry C18(I.D:2 . 1mm×150mm,ウォーターズ製)を使用し,移動相として(A)メタノール,(B)0 . 1%ギ酸水溶液を使用し,グラジエント条件として,(A)5%(0min)→ 40%(2 min)→ 95%(15 min)を用い,サンプル注入量 20 μL,流量 0 . 2 ml/L,カラム温度20℃とした。
MS の検出条件は,イオン化はエレクトロスプレイ法を用い,ソース温度:120℃,脱溶媒温度:350℃,コーンガス流量:50 L/hr,脱溶媒ガス流量:600 L/hr とし,ポジティブモードで m/z=158,160 を選択イオンとし,m/z=158(35Cl)を定量に用い,m/z=160(37 Cl)を同定に用いた。
LC/MS 分析による患者の尿の代表的なクロマトグラムと質量スペクトルを Fig. 2 に示す。
前述の条件で,1,5,10,50,100,500,1 , 000μg/L の計 7 点で検量線を作成したところ,R2=0 . 9967 が得られ,定量下限値は 1 μg/L(当初 2 倍希釈しているため 2 μg/L)であった。
4 名の非喫煙健常者の尿に対して 6 CNA を定量下限値の 20 倍である 20 μg/L になるようにスパイクし,上記の前処理後,分析を行った。
添加量に対する回収率は56 . 7±3 . 85%(mean±SD)であった。