特別支援学級の設置はまだ少数
理解のある教師が必要
前回(2018年3月22日)の記事『学校で「香害」に晒される子供たち、授業は校庭の片隅で』で報告した大阪府堺市のゆう君が、吹きさらしの校庭に机と椅子を持ち出して個別指導を受けているのと、何という違いだろう。
同じ義務教育なのに、学習環境はなぜこんなに違うのか。
原因の一つは文部科学省にある。
文科省は「健康的な学習環境を維持管理するために~学校における化学物質による健康障害に関する参考資料」(以下、参考資料)で、MCSの児童生徒への対応についてこう定めている。
「病状により長期にわたり医療または生活規制が必要とする場合には、病弱・虚弱の特別支援学級への入級や、特別支援学校への転学により、一人一人に応じた個別の配慮の下で教育を行うことができる」
「しなければならない」ではなく「できる」となっているため、財源や人員の不足などを理由に、十分な配慮をしない教委や学校が少なくないのだ。
理解ある担任の大切さを実感した保護者や子どもはほかにもいる。
関西地方の別の市の中学3年生・哲人くん(仮名、14歳)は1歳のとき、母の恵子さん(仮名)ともども農薬の空中散布などが原因でMCSになった。
症状が悪化したのは4歳のとき。発育相談に訪れた市の福祉センターで殺虫剤にさらされ、全身に湿疹が出て発熱、嘔吐を繰り返した(恵子さんは1ヵ月も食事ができなくなって車椅子生活を強いられた)。
市の福祉課に事情を知らせてあったが、相談日の3日前に害虫駆除のための消毒(有機リン系農薬などの散布)を実施していたのだ。
恵子さんは哲人くん入学の1年前から準備を始め、病・虚弱支援学級への入級を申請するとともに、市教委・学校と相談を繰り返した。
教頭が事情をよく理解し、教室の改修(床のワックスの変更や空気清浄機の設置)から教科書やチョークの変更まで、要請に前向きに対応してくれた。
入学式の前後には父と母が同級生や保護者に事情を説明する機会も与えられた。
入学後、哲人くんは体調のよいときは普通学級でみんなと一緒に学び、体調が悪化すると病・虚弱支援学級に移って担任の個別指導を受けたり、持ち込んだ布団で休んだり、さらに悪化すれば早退したり、といった学校生活を送った。
ただ、病状を的確に理解した担任は、体調に応じたきめ細かい指導をしてくれたが、理解が乏しい担任になると、そうはいかない。
体調不良となまけの見分けがつかず、体調を無視して学習を強いたり、叱ったりする。
また病気療養中の児童が虚弱支援学級に加わったため、哲人くんへの配慮が不十分になった時期もあった。
必要な支援が得られないと症状は悪化。
しかし、理解ある担任に代わると、とたんに回復したという。
MCSの子どもが学習を続けるには、揮発性化学物質が少ない教室とともに、理解ある教師が必要なのだ。
中学でも小学校とほぼ同じ体制をとってくれたが、大きな違いは科目ごとに担当教師が代わることだ。
このため先生との情報共有が難しくなる。
そうした中でも体力は徐々につき、1年の2学期からは卓球部に入って部活動も始めた。
練習は体調が許す限り他の部員と同じことをし、できないときは部員と相談して別メニューをこなし、特別支援学級生の卓球大会で入賞するまでになった。
次の課題は高校受験だ。体調に合わせて勉強できる「単位制」を選ぶか、思い切って「普通科」に挑戦するか、高校が開くオープンキャンパスに参加しながら結論を出すことにしている。
runより:私が電話相談を引き受けていた時初めにすることは「化学物質過敏症を否定しない、患者の言う事をまずは信じる」という事でした。
それだけでも心開いてくれて1時間ほど話した後は心がスッキリしたと言ってもらえました。
理解あるだけで全くちがいますね、否定されないというのは最も欲しいものなのです。