・http://diamond.jp/articles/-/170056
2018.5.16
「香害」被害の子供たちへ、学校現場で取り組みが始まった
岡田幹治:ジャーナリスト
化学物質過敏症やシックハウス症候群になった子供たちへの対策は?
写真はイメージです
香りつき商品の成分で化学物質過敏症やシックハウス症候群になった子どもたちが不登校になったり、校舎や教室に入ることができず校庭の片隅に机と椅子を移して個別指導を受けたりしている問題で、少しずつだが対策がとられ始めている。
車で必要な学校に移動できる
ユニットハウスの「特別教室」
関西地方の山間部にある市立小学校に通う6年生・陽太郎くん(仮名、11歳)が個別指導を受ける「特別教室」は、校庭の隅に置かれた移動可能な「ユニットハウス」だ。
30平米ほどの「教室」と「トイレ・洗面所」、洗濯機のある「着替え室」からなり、さらに簡単な造りの「風防室」が付いている。風防室は、外部からのニオイを防ぐともに、陽太郎くんが縄跳びをしたりするのに使われている。
ユニットハウスの特徴は、専用のトラックで運搬可能なこと。(陽太郎くんが中学へ進学した場合など)必要な学校へ移動できる。
陽太郎くんは生まれて間もなく化学物質過敏症(MCS=注1)を発症した。
そのうえ重度の食物アレルギーで、10種類くらいの食品しか食べられない。
しかも、化学物質に暴露するとアレルギーが発症して体調が急変し、生命にかかわることもあるので、登校にはいつも母の和代さん(仮名)が付き添う。
1年から通った別の小学校では、一つの教室を改修してMCS児童のための「病弱・身体虚弱の特別支援学級」(以下、病・虚弱支援学級)を設置してもらい、担任の先生から個別指導を受けてきた。
(注1)MCSは、(多くの人が何も感じないほど)微量の化学物質にさらされると、頭痛・思考力の低下・目のかすみ・息苦しさなどの症状が出る病気。
重症になると校舎に入ることもできない。近年、柔軟剤や消臭芳香スプレーなど「香りつき商品」の成分が原因で発症する子どもが増えている。
ところが、小学校の統廃合で5年から現在の小学校に通うことになった。
この小学校は、新築に近い大規模な改修工事が行われ、多量の揮発性化学物質が放散される。
しかも児童が4倍もいて、児童の衣服に残る柔軟剤などによる「香害」がきつくなる。
「中学までは無事に学ばせたい」。
そう考えた市の教育委員会が多くの関係者の支援を得て完成させたのが、移動式特別教室だ。
MCS患者の住まいに詳しい足立和郎・パハロカンパーナ自然住宅研究所代表(京都市右京区、本人もMCS患者)が全面的に協力した。
特別教室は軽量鉄骨で構造を造り、材木で肉付けしてある。
寒い地域なので高気密・高断熱。内装材は陽太郎くんが反応するかどうか、一つひとつテストして選んだ。
フィルターを活性炭入りに付け替えた空気清浄機や浄水器も設置されている。
完成後3ヵ月ほどは、前の小学校の校庭に仮設置して大気にさらし、昨年3月に現在の小学校に移した。
陽太郎くんはここで、午前・午後のすべての授業を受ける。
彼の病状をよく理解している担任は、さまざまな配慮をしてくれる。
たとえば、チョークにも反応するので、反応しない色鉛筆を使い、机をはさんで向き合い、文字を(陽太郎くんが読みやすいように)さかさまに書いて指導するといった具合だ。
陽太郎くんは学校が楽しくてならない様子。
金曜日の授業が終わると、「早く月曜にならないかな」とつぶやく。