こんなケースもある。
札幌市の小学4年生マモル君(仮名、9歳)は、4歳のときにMCSを発症した。
小学校に入学したところ、床のワックスに暴露して症状が悪化。
徐々に回復していたが、2年の夏休みに参加した行事でさらに悪化し、登校できなくなった。
実情を知った石川佐和子市議(市民ネットワーク北海道)が、担当者から教委の考えを内々に聞き出したうえで、昨年3月の市議会で質問。
答弁にたった学校教育部長から「児童・生徒の症状などにより特別支援学級への入級が必要な場合には、本人や保護者の意向等も十分に踏まえながら検討する」との言質を得た。
これを受けて母ルミ子さん(仮名)が市教委に申請。
定められた審査を経て、「入級が必要」と判断された。
小学校では、空いていた多目的室の一部を病・虚弱支援学級の教室に充てることにした。
合板のベニヤ板で仕切ってペンキを塗っただけだが、換気扇で24時間換気を続けた結果、マモル君が入室できる状態になったので、新学期の4月6日から通い出した。
理解ある担任の指導を受けており、マモル君は体調が良いと週に4日間も通学できるようになった。
IT活用し自宅で「遠隔授業」
保護者の同意を得て実現
もっとも、こうした対応をする教育委員会・学校はまだ少数だ。
学校が効果的な対応をしてくれないため、保護者がIT機器を利用した「遠隔授業」を提案し、採用されたケースもある。
大阪市の市立中学1年生・わかなさん(仮名、12歳)は、小学2年のとき校舎建替え工事の影響でMCSを発症し、新校舎に入って重症になり、ほとんど登校できなくなった。
父の隆文さん(仮名)が学校に配慮を要望したが、「市内では前例がない」などの理由で十分な対応をしてもらえなかった。
そうした中で、隆文さんが提案したのが遠隔授業だった。
仕組みは、Wi-FiルーターとWi-Fi接続が可能なiPadをそれぞれ教室と自宅に置き、Skype(スカイプ、インターネット電話)を使って、映像と音声をやりときする――というものだ。
こうすれば、わかなさんは自宅で授業の様子をそのまま見ることができ、休み時間には級友たちとおしゃべりもできる。
教師や友だちとは連絡帳でしかつながっていなかったときとは雲泥の差だ。
提案を学校側はなかなか受け入れなかったが、小学校の卒業まであと1ヵ月という時期になってようやく実施にこぎつけた。
機器は保護者が持ち込むことなどが条件で(前例にはしないという約束)、クラスの保護者からの同意は学校側が得てくれた。
中学に進学したらどうするか。
隆文さんは、わかなさんが進学する中学でも同じ方法を採用してほしいと事前に中学の校長に要請。
入学式の後、同級生と保護者の前で遠隔授業を実演して協力を頼んだ。
遠隔授業は保護者の同意書が出そろった翌週から始まった。
以上、一部で始まった学習環境改善の試みを紹介したが、全国のMCSの子どもたちに同じような配慮をするのは教育関係者の務めだろう。
それにはまず、教委と学校が子ども一人ひとりにとって最善の方法を、前例にとらわれず実行することが必要だ。
同時に文科省の支援も欠かせない。
「参考資料」を改定するとともに、教委や学校の努力を予算・人員面で後押しする仕組みをつくるべきだ(注2)。
(注2)2012年公表の参考資料は、新築や改築が原因で被害者が急増した過去の状況を踏まえて作成されており、「香害」被害者が急増している近年の状況を反映していない。
(ジャーナリスト 岡田幹治)
runより:胆沢第一小学校シックスクール問題(本当は事件と言いたい)の時ランナーけいさんの娘さんが化学物質過敏症にされたのですが中学校は一部スカイプで授業を受けていました。
教育委員会次第というのはおかしいと思うので厚労省、文科省共に遠隔授業採用に力を入れるべきだと思います。