・2017.09.14 「香害」が深刻になっています
シリーズ「香害」 第1回
岡田幹治(ジャーナリスト)
身の回りに「香りつき商品」があふれるようになり、そこから放散される微量の化学物資によって深刻な健康被害を受ける人が急増しています。
「公害」ならぬ「香害」です。
最近ようやく新聞やテレビが取り上げるようになったこの問題を、筆者は他に先駆けて正面から取り上げ、『香害 そのニオイから身を守るには』(金曜日)を今年4月に上梓しました。
引き続き「『香害』最前線」と題する不定期の連載を『週刊金曜日』で続けています。
それらの取材で得た「香害」をめぐる最新情報をシリーズとしてお伝えしていきます。
第1回は、深刻化する「香害」の実態です。
(このシリーズでは、良いにおいを「匂い」、悪いにおいを「ニオイ」、どちらでもないときは「におい」と表記する)
◆消費者の8割が使用
まず、シャボン玉石けん(株)が7月に実施したウェブ調査(20~60歳代の男女598人が対象)の結果をみてみましょう(注1)。
それによれば、回答者の約8割が「香りつきの商品」を日常的に使用しています。
具体的には柔軟剤・洗剤(衣類)、シャンプー(髪)、制汗剤が上位を占めています。
使用目的は「衣類に防臭・消臭効果をもたせるため」や「嫌なニオイを抑えるため」が多く、「自分で香りを楽しみたいから」や「他人にいい香りと思って欲しいから」がそれらに次ぎます。
その結果、どんなことが起きているでしょうか。
「他人のニオイを不快に思ったことがある」と回答した人が79%。「人工的な香りをかいで、頭痛・めまい・吐き気などの体調不良になったことがある」と回答した人が51%もいました。
しかし、「人工的な香りによる被害が『香害』と呼ばれていること」を知らなかった人が61もいました。
対象者が600人ほどの調査ですが、多くの人がニオイに非常に敏感になり、ニオイを覆い隠すために香り商品を多用している実態、それによって健康被害が増えている実態が示されているように思います。
◆香りブームが加速
この国で「香りブーム」が加速されたのは5年前(2012年)のことです。
独特の香りをつけた米国プロクター&ギャンブル社(P&G社)製の柔軟仕上げ剤(ダウニー)が08年に人気を集め、国内の大手3社(P&Gジャパン、花王、ライオン)が追随。
消臭・除菌スプレーや衣類の洗剤にも香り成分を配合するようになりました。
これに加えてP&Gジャパンが12年に、衣服への香りつけだけを目的にした商品「レノアハピネス アロマジェル」を発売し、売り上げを伸ばしました。
この結果、「香りつけ専用商品」が急増。「消費者が自身の好みに合わせて香りをブレンドする時代の始まり」などといわれました。
拡散機(噴霧器、ディフューザー)を使って香りをホテルやショールームなどで流す企業が増え出したのもこのころです。
それから5年。
いまでは文房具や洋服にまで香りつき商品が販売されるようになりました。
購買層は女性だけでなく、成年男性や中高校生にも広がっています。
ティーン向け雑誌には、整髪料・制汗剤や芳香・消臭スプレーの広告が満載。
香り商品を使わないのは非常識といった雰囲気になっているようです。
◆健康被害の広がり
しかし香りへの感受性は個人差が大きく、使う人には良い香りでも、不快に感じる人もいます。
何より問題なのは、香り商品がアレルギーの発作や喘息の悪化を含め、さまざまな健康被害をもたらすことです。
香り商品には香料をはじめ、いくつもの揮発性の化学物質が含まれており、これが化学物質に敏感な人たちを直撃します。
最も深刻な被害者が、化学物質過敏症(ケミカル・センシビリティ=CS)の人たちです。
CSは(多数の人が何も感じないような)ごく微量の化学物質に体が反応し、さまざまな症状が出る病気で、だれがいつ発症してもおかしくありません。
CSの人たちが訴えるのが「脳への影響」です。
香り成分を吸い込むと、身体が動かなくなり、頭がぼんやりして何も考えられなくなり、声や言葉も出にくくなる。まるで認知症になったように感じる人もいれば、気力が衰え、生きているのが面倒になる人もいます。そして空気の清浄なところに身を置いていると、症状は薄れていくのです。