・(私の視点)香料による被害 国は早急に調査・規制して 渡辺一彦
2017年11月2日05時00分
渡辺一彦さん
柔軟剤や化粧品などに含まれる香料で化学物質過敏症(CS)になる例が急増している。当院の外来でも患者が目立ってきた。
学校で頑固な頭痛や目まい、皮膚炎、ぜんそくなどがおきたという子どもが来る。他人の衣服に付着した柔軟剤の残り香や消臭・除菌スプレー剤が原因である。
学校側は個人の匂いの好みには介入できないとして、自粛の協力を呼びかけるしかない。
換気の効果は季節や天候により限定的。通学できなくなり、早退、休学する例もある。
休み中は症状が消えるが、学期が始まると再発に苦しむ。退学に至る子どももいる。
職場でも不幸な例は増えている。同僚や上司に訴えても解決されず、休職や退職、転職に至る。
CSの病名登録は2009年と最近だ。その後、12年に症例が急増した。
「消臭・香りブーム」である。
合成洗剤、化粧品、芳香剤、防虫剤、スプレー剤、たばこ、家具など身近な日用品が、香りはますます刺激的、効果は長持ちといううたい文句で広がった。
患者以外には深刻さが想像しにくい。
家庭でも親子や夫婦が理解しあえず別居・離婚を余儀なくされる例がある。
店舗や交通機関、医療機関も利用できなくなることがあり、生活環境は制限され、周囲には大げさとあざけられ交友関係にもひびが入り孤独になる。
患者にとって全く理不尽なこと。
まさに新しい公害、「香害」と言える。
社会にとっても大きな損失であり、CSの予防や治療、支援などに関して、もはや政策的な対応が必要な段階にあると思う。
似た症状に1990年代に増加したシックハウス症候群があるが、2003年に建築基準法が改正され、業界の努力もあって激減した。
他にも「加水分解コムギ末を含むせっけんによるアレルギー」「美白化粧品による白斑」などの化粧品による健康被害は、明らかになると対策が取られてきた。
しかし、「消臭・香りブーム」をあおったメーカーは「安全性を確認した製品を製造販売している」という立場で、このままでは香り付け商品開発競争が続く。
厚生労働省は健康被害調査を早急に実施したうえで、製造・販売・使用に関して適切な規制・指導をするべきだ。
特に、柔軟剤での使用が報道で指摘されたイソシアネートは、毒性が極めて高い。
欧米では環境基準も厳しく設定されている。
情報公開させ、厳しく規制すべきである。
国だけではない。
まれに「香料自粛」の呼びかけのポスターを掲示する自治体や公共施設もあるが、たばこの分煙、禁煙と同様の啓発が社会的に求められる。これ以上CS患者を増やしてはならない。
(わたなべかずひこ 小児科医)