「香害」が深刻になっています 第一回-2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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◆「きれいな空気」が吸えない
20年以上にわたり、1000人を超すCS患者を診察してきた渡辺一彦医師(札幌市の渡辺一彦小児科医院院長)は「発症のきっかけは以前は新築やリフォームが多かったが、近年は何といっても香料(柔軟剤・香水など)だ」といいます。
香りブームの結果、CSの人たちは「きれいな空気を吸う」という当たり前のことがきわめて困難になりました。
職場でも学校でも、通勤通学や散歩の途中でも、周囲の人から流れてくる化学物質に反応し、発作を起こすことがあります。
自宅では隣家からのニオイや配達員のニオイに追われ、介護の現場でも病院に行っても、ニオイに悩まされるのです。
化学物質による環境汚染はいまや、公害の一つになったといえるのではないでしょうか(注2)。
被害者からの相談急増を受けて国民生活センターは2013年9月、「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供」を発表し、利用者に「自分にとって快適なにおいでも、他人は不快に感じることもあることを認識しよう」と呼びかけました。
同時に業界と輸入業者には「においが与える周囲への影響について配慮を促す取り組みを行なうよう」要望しました(注3)。
これを受けて、日本石鹸洗剤工業会は「柔軟仕上げ剤を選ぶ・使うときは、周囲にもご配慮ください」などとウェブサイト(ホームページ)に記載。
大手メーカーもサイトで周囲の方への配慮と適量使用を促す啓発をするようになりました。

テレビCM・雑誌などの広告・製品の裏面表示でも、(注意してみないと気づかないほど小さな文字の場合が多いが)周囲への配慮を促す文言を入れるようになっています。
しかし、この程度の対策で事態が改善することはありませんでした。
むしろ、香りを使い続けていると感じにくくなるため、香りがより濃厚で長続きする商品が増えているように見えます。

◆被害者の要望は無視
「ある商品が原因になって一定の人たちが健康被害を受けることが確実なとき、その商品はたとえ大多数の人たちにとって有益だとしても、欠陥商品だ。そのような商品を開発・販売することは、企業倫理として許されるのだろうか」(渡辺一彦医師)という指摘もありますが、メーカーは倫理より商売です。
香りつき商品を低成長時代の数少ない売れ筋商品と位置づけ、競うように宣伝・販売に努めています。
(筆者は日本香料工業会・高砂香料工業・日本石鹸洗剤工業会・P&Gジャパン・花王・ライオンに取材を申し込んだが、すべて断られた)
こうした実態にたまりかね、被害者と支援者が結成した「香料自粛を求める会」など4団体は2013年12月、文部科学省に対し、教職員や児童生徒に強い香りの着香製品は自粛するよう呼びかけてほしいと要望しました(注4)。
続いて翌年1月には厚生労働省に対し、
①香料の健康影響を広く知らせるとともに、規制に必要な調査・研究を始める、
②保育園・病院・福祉施設の職員・利用者・来訪者に強い香りの着香製品の自粛を呼びかける、などの要望をしました(注5)。
関西では、日本消費者連盟関西グループが13年に被害者、14年には大阪府内の消費者センターと府内市町村の教育委員会にアンケートをし、その結果を踏まえて香料による健康被害をなくすための具体的な提案をしています(注6)。

◆公的規制が必要だ
しかしこれまでのところ、政府・自治体とも実効ある対策を打ち出していません。
少数の自治体が、「化学物質過敏症への理解とご協力をお願いいたします」とサイトに掲載したり(大阪府和泉市など)、「香料自粛のお願い」のポスターを作製・掲示したり(岐阜市、埼玉県など)している程度です。
その一方で、「大変心苦しいのですが、法的に規制がない状況のもとでは、県として香料の使用・利用の自粛を呼びかけるのは困難」(佐賀県)とする自治体もあります(注7)。
やはり何らかの公的規制が必要なのです。
たとえば以下のような対策が考えられます。
▽政府・都道府県・市町村は、香料による健康被害の実態を調査し、被害が頻発・拡大していることを広く知らせる。
▽同時に、公共施設では香料を使用しないよう指導し、とくに子どもを香料被害から守るよう教職員などを指導する。
▽政府は、商品に含まれる香料の成分名を具体的に表示するよう義務づける。少なくとも、アレルゲン(アレルギーの原因物質)となる香料成分の表示を義務づけた欧州連合(EU)並みの対策を実施すべきだ(EUの対策については後の回で説明する予定)。
▽香り商品にはタバコと同じように「香料によって健康被害を受けることがある」という趣旨の表示を義務づけ、テレビ・雑誌などの宣伝・広告は自粛させる。

注1 シャボン玉石けん・ニュースリリーズ(2017年8月16日)
注2 環境基本法によれば、公害とは、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染・水質の汚濁(中略)・悪臭によって、人の健康または生活環境に係る被害が生ずることである。
注3 国民生活センター「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供」
注4 香料自粛を求める会など「学校等における香料自粛に関する要望」
注5 同「香料の健康影響に関する調査および病院・保育園等における香料自粛に関する要望」
注6 日本消費者連盟関西グループ「香りが苦しい」「同PartⅡ」
注7 佐賀県民の「香料被害のポスター掲示のお願い」に対する同県の回答

*本稿は「ひろがる『香害』」(『週刊金曜日』2016年6月3日号)に最新の情報を追加し、書き改めたものです。