・2. 研究方法
2.1 対象者、実施方法と回収率 調査票は氏名や住所等の個人の特定に係わる情報は一切調査せず、2003 年 9 月に NPO法人 化学物質過敏症支援センター(以下、CS 支援センター)に登録していた有訴者 488 名に同法人か ら郵送した。
なお、本調査対象の有訴者が本症の有訴者を代表する集団であるという保証はないが、そも そも本症の定義について医学者の合意が得られていない現時点では、代表性があると保証され た有訴者についてのみ調査をすること自体が不可能である。
CS 支援センターは本症の有訴者 が登録している国内最大の団体であり、同法人に所属する多数の有訴者に調査を行うことによ って、一般的な本症の有訴者の状況を推測することが可能であると考えた。
回答は 278 名から 得られた(回収率 57.0%)。
また、対照として、特別な特徴を持たないと考えられる横浜国立大学の学務部と生協の職員、 筆者らの研究室の職員・学生の家族・知人等で本症を訴えていない人の中から無作為に有訴者 の発症時点の性・年齢構成と近くなる人を選び、279 名に調査票を配布した。
回答は 165 名か ら得られた(回収率 59.1%)。
2.2 調査票の項目 A.有訴者の性・年齢、被害年数 有訴者の基本的な特徴として性・年齢、被害年数を調べた。
被害年数は年単位の記述式の回 答とした。
B.有訴者が発症前に本症について持っていた知識の程度 低濃度暴露による悪影響への高い知識や関心が、本症の高感受性を生み出したと主張する報 告(Simon,1994)もある。
そこで、低濃度の暴露で体調悪化を訴える本症を以前に知っていたこ とが原因で「発症」したかどうかを調査するため、発症以前に持っていた本症の知識の程度を 調査した。
C.アレルギー症状の有無 本症とアレルギーとは異なる病態ではあるが共通点も多いとされている。
本症と免疫系機能 の関連を示す報告がある(Thrasher, 1990)ため、有訴者はアレルギー症状を持つかどうかを調 査した。
さらに、そのアレルギーは本症の発症前からのものであったかどうかも調査した。
D.ライフスタイルのよくないところ、自宅内の喫煙環境、飲酒状況 有訴者には症状が改善しているものもいると思われるが、調査時点で有訴者の訴える症状が 完全に治っていない原因とライフスタイルとの関連を調査するため、運動不足、睡眠不足、栄 養の不足・偏り、長い労働時間などのライフスタイルのよくないところ、および自宅内の喫煙 環境と飲酒状況を調査した。
E. 本症と判断した時の医師による診断の有無 医師の診断を受けた有訴者は医師から見たある程度の客観的な判断に基づいており、本症の 有訴者の代表性もあると考えられた。
医師の診断を受けた有訴者を識別するために、医師に本 症である、またはその疑いがあるとの診断を受けたかどうかを調査した。
また、診断を受けて いない理由として本症を診断・診察できる医師が少ないことが原因である可能性もあると考えた。
そのため、医師の診断を受けた有訴者についてはその病院・診療所の名前と所在地も調査 した。
F.有訴者が考えている発症原因 有訴者が考えている「発症原因」を調査した。
なお、「発症原因」とは本症を引き起こすに至 ったと有訴者が考える化学物質への暴露とした。
G.有訴者が行った改善のための工夫とその改善度 有訴者が行った改善のための工夫を自由記述式の複数回答可の調査票で調査し、その結果改 善された程度を 3 段階の選択式で調査した。