・8.5. 冬の室内環境
8.5.1. ヒートショック
ヒートショックとは、急激な温度刺激がストレスとなり、身体に過激な反応や影響を与える事です。
冬季の入浴の際には、暖かい居間から寒い脱衣室で裸になり、浴室では心地よい浴槽に浸り温度差が大きく、また、夜間には暖かい布団から冷たい廊下、トイレに行き、用便をたす際にも、大きな温度変化となり、ヒートショックをうけます。皮膚は温度に敏感に反応します。
心地よい環境における皮膚温は、ほぼ 33~34℃です。寒くなると、皮膚温は低下し身震いが自然とおこり、血管は収縮し、血圧は上昇します。逆に高温環境では、皮膚温は上昇し血管は拡張し血圧が低下します。身体はある程度の周りの温熱変化には、血管の収縮や拡張で対応しますが、急激で過剰な温度変化は、心臓・循環器系に大きな負担となります。
動脈硬化のある人や身体機能の低下した高齢者は、ヒートショックで心臓・脳血管の発作や意識障害が生じ、死に至る場合があります。
冬には家庭でこうした事故が増加しています。
室温は、気候や住宅の構造、各室の配置、暖房機器などによって大きく異なります。家庭内での事故の多くが、温度変化に関係しています。
最近の調査で、家庭内での不慮の事故死のうち、多くの割合を占めているのが、浴槽やトイレでの事故です。
一般家庭での入浴時の温度環境と血圧についての調査で、夏季の湯温は 40℃前後が多く、浴室の気温は約 29℃。
収縮期血圧は入浴前には約130mmHg で、入浴時は 135mmHg と、入浴による血圧の変化は大きくありません。
同じ人達を対象にした冬季の調査で、入浴時の湯温は約41℃、浴室の気温は13.5℃で、湯温は夏季より高く、室温は15℃以上低い状態でした。
収縮期血圧は入浴前に 140mmHgでしたが、脱衣時には 150mmHg 以上の高い値を示しました。
冬季の湯温と室温との温度差が 27℃以上にもなり、ヒートショックを受け、血圧への影響が大きくなっています(図 8.5.1.)。
高齢者は風呂好きで、それも熱い湯に入浴しがちです。
皮膚には温感・冷感センサーである温点や冷点が数多く分布しています。
これらのセンサーの機能が加齢とともに減少します。
個人差は大きいのですが、全体的には温度を識別する能力が低下します。
温度の異なった二つの箇所に手を触れて温度差を識別する感覚検査で、若い人は 1℃以下の温度差を識別できますが、60 歳以上になると温度感覚の鈍くなる人が多くなります。
高齢者でも 1℃くらいの温度差を識別できる人もいれば、5℃の差になって識別する高齢者もいます(図8.5.2)。
入浴時には、自分の感覚のみで室温や湯温を判断せずに、温度計や時計で客観的に温度や入浴時間をチェックすることも必要です。
ヒートショックの予防として、冬には各室温の差が大きく、特に暖房のない脱衣室や浴室、トイレなどは外気温度並みの低温になっている場合があります。
家全体を暖房する全体暖房が望ましいのですが、少なくとも、これらの場所には暖房機器を設置し使用時に暖房を行ない、温度差を少なくすることが大切です。
浴槽の湯温は 40℃くらいにして、脱衣室や浴室の室温は、低くても 15℃程度以上に保ちましょう。浴室やトイレは狭い空間で、使用時に短時間で局所暖房でも暖まります。
しかし、石油ストーブなどによる暖房では、空気が汚染され危険です。
冬季は窓や戸を閉め切り気密な空間となり、室内は二酸化炭素濃度が高くなり、さらには一酸化炭素中毒になり、死に至る危険性もあります。換気、空気清浄に配慮しましょう。