・8.4高齢者の?体機能
人は、食物摂取によって、日常活動のエネルギーを得て、体温はほぼ 37℃の恒温状態に調節され、身体機能が円滑に維持されます。
脳の体温調節中枢は、身体でつくりだされた熱エネルギーを調節し、過剰となったエネルギーを体外に放散させ、体温を一定に保つ働きをしています。エネルギーの源は食物です。
食物に含まれる糖質、脂肪、蛋白質が、胃や腸などの消化器で消化・吸収され、エネルギー源となります。
安静時の肺での呼吸機能や心臓での循環機能などの普段の動きの際にも最少のエネルギー(基礎代謝)が必要となります。
運動などの筋肉活動の場合には、活動のレベルによって、より大きなエネルギーが発生します。
産熱量が多すぎると体温は上がります。
余分な熱を体外に放熱し、常にバランスを取る事によって、体温は一定に保たれます。
熱を体外に放出するには、汗などの蒸発による放熱や周りの空気の流れによる対流、さらには輻射(放射)、伝導による放熱が柱となります。
暑熱環境や運動時には、皮膚に多く分布している汗腺から発汗となり水分が蒸発し放熱量が大きくなります。放熱には外部の温熱条件による影響が大きく、身体表面などからは知らず知らずのうちに絶えず水分が蒸発(不感蒸泄)し、放熱が起こり体内のエネルギーを調節しています(図 8.4.4.)。
身体に適した温熱環境としては、生理機能からみると体温を維持するのに身体に負担が少なく、体温調節のためのエネルギー消費が少ない環境と言えます。
暑い環境では、皮膚血管が拡張し皮膚からの発汗による放熱作用が盛んになります。
逆に気温の低い環境では、血管が収縮し身体からの熱の発散が抑えられ、筋肉の緊張やふるえなどにより産熱が増加します。
こうした働きが活発になる温度を下臨界温と言い、逆に上臨界温は、血管が拡張し血流が最大の状態となり、蒸発が盛んになる時点です。
そして、これら上下の臨界温にはさまれた範囲が、「暑くもない、寒くもない」中性温域で、この温域の中でさらに狭い範囲が、エネルギー消費の最も少ない生理的な至適温域です(図 8.4.5.)。
乳幼児は体温調節機能が未発達で、外部の温熱状態に影響されやすく、熱い環境に居ると、熱中症や発熱を起こしやすくなります。
高齢者の場合には、身体機能が加齢により劣化が起こり、外部環境の影響を受けやすく、体温調節機能も不安定となり、身体の機能を一定に保つ体温の恒常性が崩れ、熱中症になりやすくなります。
身体と環境との熱の交換に影響を与える主な外部の要素は、気温、気湿、気流、輻射(放射温度)の温熱環境要素、そして、人体側の主な要素は、身体のエネルギー代謝と着衣です。
体温を一定に保つ体温調節機能には、身体内の機能による「自律性調節」と、人の身近な生活行為による「行動性調節」に大別されます。
行動性調節は、暑熱時には冷房をつけ、薄着になるといった行為や行動で、寒冷時には暖房をつけ、着衣を着込むなどの行動による調節です。
自律性調節は、身体内部で産熱・放熱を調節する体温調節機能による調節で、そのうち、熱エネルギーを産生する産熱に関する調節を「化学的体温調節」といい、一方で末梢血管の拡張・収縮、そして、皮膚や呼吸による汗、水分の放散などによる体熱の調節を「物理的体温調節」といいます。
高齢者は温度刺激に対し、体温調節を行う自律反応の開始が遅れがちになり、或いは過剰に反応を起こしやすくなります。
適切に身体機能が調節されないことから、高齢者の体温は変動しやすく、暑熱環境では体温が高くなりすぎ、寒冷環境では低体温化します。
外部からの温熱ストレスに対する反応の予備能力が少なく、身体全体への負荷が大きくなり健康障害を起こしやすくなります。
8.4.3. 熱中症の予防対策
一日の最高気温が 30℃以上にもなる真夏日、そして最低気温が 25℃以上の熱帯夜が、近年は多くみられます。
都市部では、木陰となる緑も少なく、コンクリートの建築物が多く、日中に暖められた建物や道路が夜になっても冷えずに、都心部は暑熱地帯となりヒートアイランド現象がみられます。
こうした地域では夜になっても家のなかに熱がこもり、知らず知らずに熱中症になり、特に高齢者は寝ているうちに体調を崩し、死に至る場合もみられます。
熱中症の発生には、環境条件や生活活動、そして着衣状態が大きく影響します。熱中症が増加する梅雨前からの予防対策が必要です。
日が当たる窓ぎわに朝顔やヘチマなどの植栽や、スダレなどを窓の外に設置し、輻射熱の室内への侵入を防ぐことが効果的です。庭がある場合には樹木を植えると、緑陰とともに微風を伴って、窓からの自然の涼しさが期待できます。
家の中では、ほどよい風の流れが居心地を好くします。
窓から入った空気が他方の窓やドアから出る空気の通路です。
部屋に窓や換気孔が一つですと、空気の流れは滞りがちになります。
衣服面では少し緩めの衣服を着用すると衣服内で空気の流れができ、皮膚からの放熱を促すことになります。
ノーネクタイが省エネルックとして定着しています。
社会的マナーを損なうことのない程度の軽装にして、衣服内気候に配慮しましょう。
身体に密着した衣服では、空気の流れが滞り、放熱効果が限定的になります。
ノーネクタイやループタイの着用により、首筋から衣服内の空気が流出し皮膚から熱の放散を促し熱中症の予防に効果的です。
住まいにも衣服にも空気の流れは大切です。
湿度が低くカラリとした環境で、木陰からの微風も加われば、気温が少々高くても体感温度は低く、快適です。
同じ気温であっても多湿・無風ですと不快になり、更には放熱が円滑に行われないので、熱中症の危険性が増します。
日本の蒸し暑い夏に冷房は必須化しています。
しかし、一方で適切に使用しないと冷房病などによって体の調子を損ないます。
また熱帯夜で暑いからといって、就寝時には冷房の温度を下げすぎないようにしましょう。お腹にブランケットを掛けるなり、寝具への配慮も必要です。
冷房によって部屋の温度は、不均一となり天井付近の温度が高く、床付近は冷えすぎになっていることがしばしば起こります。
扇風機を部屋の隅に置き、人に風が直接当たらない様にして、空気を撹拌することが効果的です。
室内に温湿度計を備え、身近な生活域の室温湿のチェックが必要となります。
不快指数が 75 を越えると人々の一割が温熱的に不快になり、不快指数 80 を越えると全員が不快になるとされ、高温多湿の風土に生活する日本人の場合には、不快指数が 77 になると不快に感じる人が出はじめ、85 になるとほとんどの人が暑さによる不快を感じるとされます。
体感温度と不快指数との関係は一般的に表 8.4.1.に示されるようになります。
近年では輻射の因子を取り入れた暑さ指数(WBGT 指数)が、スポーツ、運動や産業分野で多用され、計器も開発されています。
日本体育協会の基準では、暑さ指数が 31℃になると、「運動は原則中止」、気温にして 35℃に当たります。
暑さ指数 28~25℃では「熱中症に警戒し、積極的休憩を」で、気温にして 31~28℃になります(表 8.4.2.)。
日本生気象学会では、気温と湿度の関係から簡易的に暑さ指数を求め、暑さ指数 31 以上で「危険」とし、暑さ指数 28~31 の範囲を「厳重警戒」としています。
室内の気温が 25℃であっても、湿度が高く 100%の条件での暑さ指数は 28 となり「厳重警戒」、逆に気温が 30℃と高くても、湿度が 40%の条件では暑さ指数は 25 未満の「注意」となります(表 8.4.3.)。
日本産業衛生学会では、作業の強さと暑さ指数(WBGT)から暑熱時の作業条件を定めています。
適切な休憩時間をとり、継続 1 時間の作業、および断続 2 時間作業を適用の前提条件としています。
作業の強さによって許容される暑さ指数を定めています(表 8.4.4.、表 8.4.5.)。
通常の産業現場では,デスクワークなどの極軽作業(RMR が 1.0 前後)の継続作業が多く、手作業が主となります。
そのため作業の強さはほとんどが軽作業(RMR が 2 まで)となります。しかし、作業現場での中程度の作業(RMR4 まで)は継続作業が可能であるため、中程度の作業は継続1 時間作業を基本としています。
重作業(RMR4 以上の作業)は、継続1 時間作業は困難であるため,断続作業を基本としています。
したがって、ここにいう作業時間については,作業形態を継続作業と断続作業とに分け、継続作業は、 時間連続して暑熱ばく露を受ける作業で、正常な 8 時間作業中の1 時間で評価できるようにしています。
断続作業は、2 時間内に断続して暑熱ばく露を受ける作業で、同様に 2 時間の断続作業で評価できるようにしています。
それは、産業現場の実態にできるだけ合致するように配慮したことと、短時間で評価できるように配慮しています。
runより:シックハウスと関係があるか疑問な記事ですが掲載しました。