・8.2. 高齢者と室内環境
これまでのシックハウス症候群の疫学研究からは、加齢によりシックビルディング症状の有病率の変化については明確な結論はでていません。実験として行われた研究結果から、化学物質の鼻の刺激閾値についてはは高齢者では上昇している(若年より高い濃度から刺激される)ことが考えられ、嗅覚についても加齢により低下することなどから、化学物質の臭いによる症状の悪化、化学物質自体の鼻への刺激症状が軽減している可能性が考えられていますが、それのことがシックハウス症状の緩和につながるかまではわかっていません。
したがって、現時点ではシックハウス症候群について高齢者の特徴を考えた対策をとることは考えにくい現状です。
(温度環境については、「第 8 章 4 節 室内における熱中症、
第 8 章 5 節 冬の室内環境」を参照してください)
8.3. アレルギーなどを有する室内環境
気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などは室内環境からのアレルゲンに反応する場合があり、血液検査(特異 IgE)等により判明した原因となるアレルゲンを除去・減じることが求められます。
一般的なダニアレルゲンや真菌アレルゲンなどへの対策は、適切に換気を行い、掃除の励行をし、湿度環境の改善を行うことが必要で(3.3.3.参照)、できればカーペット・絨毯を使用せずにフローリングで生活する、暖房器具も室内排気のものを使用しないなどがあげられます。
また、ペットの動物もアレルゲンとなることがあり、ペットの飼育についても主治医と相談が必要です。
喘息に対するアメリカのガイドライン(米国心臓肺血液研究所(National Heart, Lung, and BloodInstitute: NHLBI))米国喘息教育・管理プログラム(National Asthma Education and PreventionProgram: NAEPP)「喘息診断・管理ガイドライン」)によると、ダニアレルゲンへの特に有効な対策として、(1)ベッドマットに防ダニシーツを使用する、(2)枕に防ダニカバーを使用する、もしくは約 55℃の温水で洗う(毎週、冷水であれば洗剤と漂白剤を使用)、(3)シーツと毛布も温水で洗う(毎週)、その他、有効と考えられる対策として(4)湿度を 60%以下、できれば30~50%とする、(5)布張りのクッションや家具に横にならない、(6)ぬいぐるみについても寝床にもちこまない、毎週洗う、乾燥すること、などが述べられています。
一方、アトピー性皮膚炎については、日本アレルギー学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインでも、ダニアレルゲン対策は必要としているが、乾燥による症状への影響を考慮して湿度は 40~50%が望ましく、保湿剤を使用することを推奨しています。
がん治療中、免疫抑制剤を治療中など免疫状態が低下している場合などについても、換気を励行し、細菌・真菌の繁殖を防ぐ湿度環境対策を行い、特殊な感染症であるレジオネラ対策のために、一般家庭では加湿器、24 時間風呂などの衛生管理、冷却塔(温度の上がった冷却水を空冷する装置)や温泉設備のある建物でもレジオネラ防止指針(第 3 版 財団法人ビル管理教育センター)などを参照して管理していく必要があります。
8.4. 室内における熱中症
8.4.1. 熱中症の増加傾向
熱中症は、地球温暖化や都市部でのヒートアイランド現象などもあって、年々増加傾向がみられます。
以前には炎天下での作業や運動時の事例が多かったのですが、最近は家の中で熱中症になる事例が、特に高齢者において多くみられます。1990 年後半から、熱中症による死亡数は、男女ともに増加傾向にあり、特に熱波の年には一段と増加が顕著です(図 8.4.1.)。
年齢別には熱中症による死亡数は、20 歳未満では少なく、全体の数%に過ぎず、20~44 歳、45~64歳でも経年的に低下傾向がみられます。しかし、65 歳以上の高齢者で多くなり、全体の 70%台を占め、急増しています。
ここ数十年間の年齢別の熱中症の総死亡数は、0 歳児でやや多く、その後は、女性は年齢とともに次第に増加傾向がみられ、80 歳前半には男女ともに死亡が最も多くなっています。
男女別では 70 歳台前半までは男性の死亡が女性よりも多く、特に、中年層では男性が女性の数倍から数十倍を占めて多く、しかし、75 歳以上の後期高齢者になると、女性が男性を上回っています(図 8.4.2.)。
熱中症の原因は、体温調節機能が未発達の乳幼児期では、閉め切った自動車内や日向などの暑さにばく露され発生し、児童や学生では、炎天下の屋外での行動・運動の場合での発生が多くみられます。
中年層では仕事中に、屋外や冷房のない場所での発生が多くみられます。
そして、高齢者では、日常生活、家の中での熱中症の発生が多くみられます(図 8.4.3.)。
熱中症の発生場所については、地域差がみられ、救急搬送された統計からは、南の沖縄では搬送数のうち仕事中が 70%以上を占め、次いで運動による場合が多く、住宅内は数%と少なくなっています。
逆に北国の札幌市や日本海側の新潟市では、住宅内での発症が 40%以上を占め最多となっています。
その他の地域でも住宅内での発症が多く、これには高齢者の家の中での熱中症の発生が大きく関与しています。
全体的に「住宅内での事故」が 40%弱を示し最多で、次いで道路・駐車場や仕事場での発症が多くなっています。
日本は近年、高齢化のスピードが著しく、世界でもトップレベルの高齢社会、さらには 75 歳以上の後期高齢者が多く超高齢化し、夏季の高齢者の室内における熱中症の発生が多くみられます。
ヨーロッパの先進福祉社会では「福祉は住居にはじまり、住居に終わる」とされて、良質な住宅なしには福祉は成り立たないと考えられます。
日本は今では 65 歳以上の老年人口が 25%以上を占め、65 歳以上の者のいる世帯の全世帯に占める割合が、平成元年に 27%であったものが、最近では 40%以上と、年々増加しています。
福祉に関連し高齢者の室内環境が重視されなければなりません。
高齢者のみの世帯も多くなり、高齢者の単独世帯、すなわち独居老人も増加傾向にあります。
室内において高齢者が自分でも気づかず、他の人にも気づかれずに、夏には熱中症、そして冬にはヒートショックや低体温化により死に至る場合もみられます。
特に独居老人が死後に発見されるといった事例がみられ、社会的対応が必須となります。