56 ;科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂版) | 化学物質過敏症 runのブログ

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5.2. 生物学的要因 

5.2.1. 真菌(カビ) 

a. 室内環境中の真菌 

室内中に真菌は必ず存在します。

職業性の大量ばく露は確実に呼吸器系などの健康影響を与 えることが報告されていますが、通常の居住室内環境における気中真菌濃度の上昇によるシッ クハウス症状への影響はよくわかっていません。

一方、真菌は微生物由来揮発性有機化合物 (Microbial Volatile Organic Compounds: MVOC)のような刺激性の化学物質を産生することが あり、マイコトキシン(カビ毒)を産生することがあります。

また菌体成分の 1→3-β-D-グ ルカンも刺激性があり呼吸器などに健康影響を生じる可能性があります。室内中の真菌には以 下のような種類があります。 

1クラドスポリウム (Cladosporium) 

俗称はクロカビ。

室内や外気中において最も高頻度に検出されます。中温性・好湿性で、湿 性、水系環境に多く、土壌、植物、繊維、紙、木材、皮革、体表、家塵、油剤、プラスチック、 穀類など様々な場所に存在します。アレルギーの原因となり、医療機関の検査では血液検査に よる特異 IgE(特定の物質がアレルギーの原因となるかを推定する血液検査)の測定が行うこ とができ、皮膚テスト用アレルゲンによる検査も行われています。 

2アスペルギルス (Aspergillus) 

俗称はコウジカビ。自然界に広く検出され、中・高温性の耐乾性から好乾性であり、家塵、 土壌、穀類、繊維、紙、皮革などに存在します。

アレルギーに関連し、医療機関では血液検査 による特異 IgE の測定が行うことができ、皮膚テスト用アレルゲンによる検査も行われていま す。

この真菌による特殊なアレルギーとして、アレルギー性気管支肺アスペルギスル症という 喘息とアレルギー性の肺炎が合併する病気の原因となります。

免疫機能が低下している人には 肺アスペルギルス症という感染症の原因となります。 

3ペニシリウム (Penicillium) 

俗称はアオカビ。生活環境では、ハウスダスト(家のほこり)、水系・乾燥性環境、空中な どに多く、とくに室内空中に広く存在します。温度感受性が強く、多くは 30°C以上で発育不良 の中温性です。アレルギーの原因となり、医療機関では血液検査による特異 IgE の測定が行う ことができ、皮膚テスト用アレルゲンによる検査も行われています。 

4アルテルナリア (Alternaria) 

俗称はススカビ。中温性、好湿性真菌で、木材、空中、土壌などに存在します。アレルギー の原因となり、医療機関では血液検査による特異 IgE の測定が行うことができ、皮膚テスト用 アレルゲンによる検査も行われています。 

b. 真菌評価方法 

一般的に利用できる有効な評価方法は少ない状況です。

気中の真菌数を直接、定量的に評価 する方法として、落下真菌をシャーレで培養する方法、エアーサンプラーで一定量の室内空気 を吸引して、顕微鏡により真菌数をカウントすることや、培養される真菌数をカウントして、 一定空気量(1m³あたりのコロニー(菌の集落)数(colony forming unit: cfu)など)に含ま れる真菌量を定量化する方法があります。

培養後に、真菌の種類とその量の定量化も可能にな ります。

しかしながら、ばく露量を直接リスク評価に利用することは難しく、職業ばく露では 105-107cfu/m3 のレベルで呼吸器症状などが生じるとされますが、一般室内環境の気中真菌量と シックハウス症状の関係ははっきりしていません。

そのため、WHO の報告書などでも、一般室 内環境のガイドライン値の設定はできないとしています。 

ちり 測定法については、研究室レベルとなりますが、室内の塵A を集めて真菌を培養定量すること や、Polymerase Chain Reaction: PCR 法という分子生物学的手法で真菌遺伝子を検出定量する ことも行われています。

しかしながら、これらとシックハウス症状との関連ははっきりしてい ません。

また、室内気中の微生物由来揮発性有機化合物 (Microbial Volatile Organic Compounds: MVOC)を測定することにより真菌の影響を推定する方法があり、シックハウス症候 群の指標となる可能性が報告されています。

MVOC はいくつかの研究でシックハウス症候群など の健康影響が報告されていますが、未だ関連ははっきりしていません。 

以上のように真菌について環境から定量的に評価するのは難しい状況ですが、個人について真 菌の影響を医療機関で判断する方法として、特定の真菌に対するアレルギーが存在するか確認す るには、先に述べたクラドスポリウム、アスペルギルス、ペニシリウム、アルテルナリアについ て血液検査で特異 IgE を測定することにより、アレルギー症状に影響しているか推定することが できます。 

5.2.2. 細菌
a. 室内環境中の細菌 

 一般環境では室内に細菌が存在することは避けられません。

感染症としては、室内に結核等

の呼吸器感染症発症者がいる場合や、空調の冷却水、循環式給湯器のメンテナンス不良などに

よるレジオネラ感染症といった疾病と関係します。細菌が産生するエンドトキシン(細菌の細

胞壁に含まれる毒素)は呼吸器系に影響する物質として知られています。

b. 細菌評価方法 

 真菌と同様に、気中の細菌数を定量的に直接評価する方法として、落下細菌をシャーレで培

養する方法、エアーサンプラーで一定量の室内空気を吸引して細菌量を定量化する方法があり

ます。

しかしながら、一般居住室内環境において気中細菌量が増えたことによるシックハウス

症状への影響は認められていません。

エンドトキシンは、一般の室内環境ではシックハウス症

状に影響を与えるとは考えにくく、逆に適度にばく露するとアレルギー性の喘息が減少するこ

とが報告されています。