11:科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版) | 化学物質過敏症 runのブログ

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・3.2. シックハウス症候群の疫学
世界的には、1991 年からシックビルディング症候群・シックハウス症候群に関する論文が報告さ
れています。国別にみると、スウェーデンとデンマーク、フィンランドなど北欧で多くの論文が発表
されています。次いで、アメリカ、イギリス、ドイツからも報告があります。近年は中国や台湾など
のアジア諸国からも論文が報告されています。ヨーロッパの研究の多くはオフィスビル、集合住宅、
学校などにおいて労働者や居住者のシックビルディング症候群・シックハウス症候群に関する研究が
報告されています。日本からは、一般住宅およびオフィスビルにおける研究が報告されています。
3.2.1. シックハウス症候群の有症率
有病率(有症率)とは、ある一時点(調査時)において、集団においてその疾患を持っている人(あるいはある特定の症状を訴える人)の割合のことを表します。

有病率を推定するためには、対象とする集団(母集団)から無作為に調査対象者(サンプル)を選定して、その対象者の疾患の有無を調査する必要があります。

シックハウス症候群については、その原因及び症状が多様であり、医療機関において医師にシックハウス症候群と診断される人はほとんどいません。

従ってシックハウス症候群か否かは、調査対象者自身の自覚症状などを参考に判定する必要があります。

そのためシックハウス症候群の場合は、有病率というよりも有症率といった方がふさわしいと考えられます。
シックハウス症候群の有症率は、用いるシックハウス症候群・シックビルディング症候群の定義によって異なります。

日本では、当初シックハウス症候群は新築住宅での訴えが注目されたことから、新築や改築に伴う化学物質濃度の問題として論じられることがほとんどでした。

過去の規模が大きい調査でも「新築・リフォーム後に発症、増強」したケースや、「においと関係する症状」をシックハウス症候群と定めている調査研究があります。

しかし、本マニュアルでも述べているとおり、シックハウス症候群との関連を示す室内環境要因は化学物質のみならず、ダンプネス(結露の発生などの室内の部分的な湿度環境が悪化した状態)、真菌やダニなどの生物学的要因も重要な因子とされています。

また、有症率そのものは、疫学研究が対象とする集団によっても変わります。

従って、数値自体の意味を問うよりも、その研究の中で対象者の属性や室内環境による影響を比較するための指標として利用されます。
シックビルディング症候群の調査票としては、スウェーデンのアンダーソンによって皮膚・粘膜刺激症状、精神神経症状を調査する MM 調査票(MM-Questionnaire、Environmental Medicine のスウェーデン語 Miljomedicin の略)が開発されています。

この調査票の日本語版が溝上らによって翻訳されており、シックビルディング症候群やシックハウス症候群をスクリーニングするときに用いることができます(図 3.2.1.)。

MM 調査票の質問は 2 段階になっています。

第 1 段階では、過去の一定期間に皮膚や粘膜の刺激症状、精神神経症状などのシックビルディング症候群・シックハウス症候群の症状があったか、またその症状の発生頻度として、毎週のようにあるのか、あるいは時々なのかを確認します。

第 2 段階では、その症状は建物を離れると改善するか、即ち特定の建物内で生じる症状かどうかを確認します。

同じ MM 調査票を用いている研究であっても、シックハウス症候群の定義が研究によって異なりますので、研究間の有症率の数字自体の比較には注意が必要です。

MMQuestionnaireが開発されたスウェーデンにおけるシックビルディング症候群は、調査研究によっては第二段階の質問による絞り込みを行っていない場合もあります。

「その症状は建物を離れると改善するか」ということについては限定せず、週に少なくても 1 回はそのような症状がある場合をシックビルディング症候群ありと定義されている研究が多いようです。

その場合の有症率は、特定の建物内と限定した場合の有症率 3〜6%と比較して、7〜13%と約 2 倍の有症率となることが報告されています。