[研究の構成]
本特別研究では、居住環境における濃度が高いことが報告され「シックハウス症候群」などとの関連が指摘されているホルムアルデヒドとトルエンを主に用いて、揮発性有機化合物の脳・神経―免疫軸を中心とした情報の流れを解明し、その影響を明らかにするために、以下の3課題をもうけて研究を構成した。
サブ1 脳・神経系における化学物質の影響解析
化学物質の曝露による情報の取得、伝達、記憶としての蓄積について、嗅覚と海馬における反応について解析する。とくに、海馬を選択した理由は、海馬は記憶や学習の中枢であり、記憶に関与する神経細胞のシナプスの可塑性が有機溶剤曝露により影響を受けるとの報告がみられるからである。
この海馬における神経細胞の生理的機能変化、グルタミン酸作動性興奮性ニューロンの量的・質的変化、および情報ネットワークとしての嗅球、扁桃体など脳の他の領域での変化を明らかにする。
サブ2 免疫系における化学物質の影響解析異物としての抗原情報の伝達、情報の蓄積産物としての抗体産生について化学物質の曝露による影響を解析する。
具体的には、免疫系における化学物質に対する特異的記憶機能はリンパ球が重要な機能を担っているのでリンパ球を中心として検索する。化学物質の曝露後にリンパ球の増殖反応、Bリンパ球、Tリンパ球亜集団の変動、サイトカイン産生能、特異抗体の産生の有無、および抗原物質の投与に対する情報伝達系の増強反応を検索する。
また、脳神経―免疫相互間での作用機構の変動を解析するため、化学物質を曝露したマウスの大脳辺縁系や免疫臓器でのサイトカイン・ケモカイン類や神経成長因子、神経ペプチドなどの動態を検索する。さらに、リンパ球欠損動物への化学物質の曝露による神経伝達物質の遺伝子発現を検索する。
サブ3 体内動態の測定および曝露評価と評価手法の開発揮発性化学物質の曝露による吸収、体内動態、蓄積に関する新たな情報を得るための手法の開発と検証を行う。
体内動態評価研究では動物実験と平行して、まず、神経系などに影響を与える化学物質の動態に関する文献調査および過敏症患者の居住環境等の基礎調査を行い、被検化学物質の絞込みを行う。
また、投与された化学物質がどのように脳神経系、免疫系に作用するのか明らかにするために、血液中や脳内での動態について曝露動物を用いて高感度化学分析法により解析する。