・Ⅶ.化学物質過敏症に関する議論
1.肯定的見解
種々の不定愁訴を訴える患者を,化学物質過敏症として治療したところ,病状が改善または現状維持し,社会復帰に結びついたなどの報告がある5, 6)。
また,化学物質過敏症患者の病態に関する検討報告も多々なされている12-18)。
また,機能的脳画像法による脳画像解析を用いた客観的診断法を用いての検討もある19)。
疾患の原因としては,「毒物誘発耐性喪失(toxicant-induced loss of tolerance( TILT))」理論がその一つとして挙げられている20)。
TILT は2つのステップからなり,第1段階の,最初の急激な,あるいは,慢性的な毒物の曝露が,非常に低い濃度での過敏性を獲得する第2段階の引き金を引くことに繋がるというものである。
しかし,これでは,詳細なメカニズムは説明されず,議論の的になっている。
化学物質曝露により,免疫システムの破綻や,神経システムや生化学的エネルギー産生,精神医学的,神経行動学的機能等の変化が引き起こされるという考えも提唱されている21)が,これらはあくまでも仮説であり,科学的エビデンスは示されていない。
2.否定的見解
化学物質過敏症とされる症状については,科学的・疫学的な立証を経たものは少ない。微量な化学物質が多彩な症状を引き起こしているとする客観的な証拠がなく,においや先入観によりひき起こされていると考えられるとの指摘がなされている22)。
また,化学物質過敏症は身体表現性障害の診断基準を満たし,心因性であるとの意見もある23)。
患者本人が精神疾患であることを認めず,身体疾患であることに固執したり,種々の自律神経機能検査で異常を呈することも,身体表現性障害で説明は可能であるとされる。
わが国の環境省研究班24)では,病態の解明のため,二重盲検法による低濃度曝露研究を行った。
化学物質過敏症と診断された32名が対象である。
曝露室内で二重盲検法により低濃度ホルムアルデヒドガスを曝露させ,自覚症状,検査所見の変化が曝露濃度と相関するかが調査された。
プラセボで症状増強する者も多く,低濃度ホルムアルデヒドで症状増強した者の検査の再現性も低いことから,低濃度ホルムアルデヒド曝露と被験者の症状誘発との間に関連はみられなかったと結論された。
調査班は,いわゆる化学物質過敏症の中には,化学物質以外の原因(ダニやカビ,心因等)による病態が含まれていることを推察している。
海外における同様の検討でも,低濃度ホルムアルデヒド等の曝露と被験者の症状誘発との間に関連はみられていない5, 25-27)。
runより:半分否定的な感じですが否定しきれないというのがこの情報ですね。
まだこういう考えは根強いのですが一次診断をする医師が増えている事が化学物質過敏症の存在を認めていると思います。