・ 研究方法:
本研究では,以下の4項目について研究を行った。
1.室内環境中のフタル酸エステル類の曝露評価法の確立 LC-MS/MSを用いた分析化学的手法により,ハウスダストを中心とした環境試料中フタル酸エステル類の測定法を確立した。
2.フタル酸エステル類の健康リスク評価(文献的検討) フタル酸エステル類について,報告書や文献等から多媒体曝露に関する情報収集を行い、リスク評価を実施した。
3.化学物質に対する感受性変化の要因に関するアンケート調査による評価 インターネット調査により,Quick Environmental Exposure AND Sensitivity Inventory(QEESI)をもとにしたアンケート調査を実施することで,感受性変化の要因について調査した。
4.化学物質に高感受性を示す宿主感受性要因の検討 メタボローム解析により,生体内の代謝因子と化学物質過敏症との関連について調べると共に,アンケート調査により化学物質過敏症に対するパーソナリティーの要因についても評価した。
結果と考察:
実施した4つの研究項目に関する結果を以下に示す。
1.ハウスダスト中のフタル酸エステル類の分析においては,LC-MS/MSを用いることで,高感度な分析法が確立され,ハウスダスト及び室内空気中の粒子状成分からは,家屋によって分布は異なっていたものの,対象としたフタル酸エステル類の殆どが室内汚染物質として存在することが明らかとなった。
2. 健康リスク評価に関連した文献評価からは,日本で汎用されているフタル酸エステル類の多媒体曝露により3種のフタル酸エステル(DBP,DEHP,DINP)についてMOEが比較的小さかった。
また,これらの推計曝露量は、複数の異なる文献値をもとに合算したものであるため、今後、集団単位で各経路別曝露量を調査する必要性が考えられた。
3. Quick Environmental Exposure AND Sensitivity Inventory(QEESI)を用いたアンケート調査の結果から,化学物質に対する感受性変化の要因については,化学物質感受性の増悪に対して,建材よりも住居内への持ち込む品が関係していることや,化学物質感受性の改善には、適度な運動が効果的であることが明らかとなった。
4.メタボローム解析により,化学物質過敏症の発症要因に対して生体内の代謝経路に着目し検討した結果からは,化学物質過敏症に対して,アミノ酸の減少や中鎖脂肪酸の有意な増加が関与している可能性が示された。
また,“化学物質過敏性集団”CSPとパーソナリティーの関連について調べた結果からは,「気質」は直接CSPに影響しないが, 「性格」は有意にCSPに影響することが判明した。
また, 疲労蓄積度に関しては, 勤務状況はCSPに影響しなかったが, ストレスの自覚症状はCSPに強く影響を与え,その一方で, ストレスの自覚症状が強い人の方が, 化学物質に対する自覚症状が軽減することが判明した。
結論:
本研究の実施により,室内環境中のフタル酸エステル類の曝露評価法を初め,リスク評価,また,シックハウス症候群などとの関連から,化学物質に対する感受性要因を明らかにするための心理的,生理学的指標について知見が得られた。これらの知見を基に,次年度の一般家庭を対象としたフタル酸エステル類の調査を実施し,国内の一般家庭の汚染の実態について調べる予定である。
公開日
2017年06月23日