6 発達障害の早期発見と予防・治療
(1)農薬や PCB など発達神経毒性をもつ環境化学物質を避ける予防
発達障害の研究は,発達障害児の発症を予防するか,予防に失敗した発症しつつある子どもを早期発見し,適切な治療・療育を行う方法の開発に役立たなくてはいけない。
第 1 の予防については環境因子が増加の原因と判明したので,その危険因子を避けることによって,原理的には簡単に予防できる。
実際,重度の発達障害ですら,クレチン症のように,原因が環境因子とわかると,ほぼ完全に予防・治療できている例がすでにある。
未知の化学物質もあると思われるが,妊娠が予想される女性はことに注意して,発達神経毒性があることがわかっている農薬や PCB を避ければ,その分リスクは下がる。
農薬など危険な発達神経毒性をもつ化学物質を同定し使用禁止にするなど社会的に規制することが根源的であるが,個人的な努力でリスクを下げることはできる。
住んでいる地域での空中散布などの農薬の使用をやめさせたり,農薬のなるべく入っていない無農薬・減農薬など有機農法による野菜・果物や穀類をとればよい。
市販の家庭用殺虫剤も農薬と同じ毒性化学物質が主成分で,ことに最近の住宅の密閉した室内での使用は危険である。
現在の日本では,蚊やゴキブリで病気になるリスクはまったくと言っていいほどないが,アレルギー体質(遺伝子背景)をもつ人が化学物質過敏症になるリスクがかなりあることは,花粉症が “国民病” になっていることでもわかる。
現在も実は日本のあちこちに存在する PCB の管理は,法的に厳格にするよう義務づけられてはいるが,管理者のいない潰れた工場跡地などにある廃棄された機器や,古い蛍光灯から液体が漏れ出ていたら PCB の可能性があり注意すべきである。
PCB は 60 年も前に禁止されたが,変圧器などの閉鎖系では使用が続いており漏れだすことがある。
PCB は代表的な難分解性有機化合物(POPs)で,いまだに地球全体を汚染しており,海洋などでの食物連鎖によりマグロやクジラなどの脂肪には,脂溶性のためかなりの濃度濃縮している。
トロやクジラ肉の脂身は避けた方が無難だ。PCBは長年にわたって地球環境を全体に汚染したため,普通の生活をしていても,私たち日本人は全員その体が,年齢に比例して PCB に汚染されている。
また PCB とよく似た化学構造の難燃剤 PBDE は,PCB 同様に甲状腺ホルモンを阻害することが確認されているが,現在も多量に使用され続けて環境中に汚染が広まり,既に日本人の血中にも検出されている。
本稿(下)で言及するが,毒性のある環境化学物質は国レベルでの規制が望まれる。