自閉症・ADHD など発達障害増加の原因としての環境化学物質3 | 化学物質過敏症 runのブログ

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(2)特定の神経回路(シナプス)形成不全による発症メカニズム
発達障害児の DSM などの診断基準がなかった時代には,発達障害は上野一彦(東京学芸大学)らが研究を始めた教育畑では「学習障害(Learning Disabilities,LD*3
)」と総称されたが,医学畑では,全体的に子どもの脳の一部に微小な異常があるとして「微細脳機能障害(肉眼による病理解剖ではわからないくらい微細な障害:MBD)」と呼ばれていた9

ヒト脳高次機能の神経科学の立場から言えば,この「微細脳機能障害」が,発達障害全体の病態をあらわす適切な表現かもしれない。

すなわち,自閉症の子どもでも膨大な脳の諸機能を担っているほとんどの神経回路は正常で,他人とのコミュニケーションが苦手であるなど,特定の能力を担っている神経回路だけが,機能不全である。

すなわち,全体から見れば,極微少の障害なのである。これは(1)項で述べた,正常な子どもたちとの差はごくわずかで,個性との連続があるという 事実とも対応する。
コラム 1
クレチン症の原因解明と予防・治療法の確立原因環境因子のうちでも,胎児期からの化学物質環境が脳などの発達に影響し,病気や障害児を生じることは約 50 年前からわかっていた。

ヨーロッパ・アルプスの南麓にあるアオスタの谷,日本では昔の群馬県の一部など,ヨードが飲み水などに不足している地域では,「クレチン症」という一見してわかる重度の知的障害・精神発達遅滞や発育不良をともなった発達障害が多発していた。
ヨードを成分とする甲状腺ホルモンが出産前後(周産期)の母親や新生児で不足することが原因とわかるまでは,血統(遺伝)や親の育て方が悪い,という説が有力だったことは,自閉症と同様で記憶しておくべきである。
ヨード欠乏による甲状腺ホルモン不足が脳の発達障害の原因とわかったので,ヨード剤による予防が始まり,出生前に予防できなかった子も新生児検診の血液検査で発見し,ホルモン剤での治療が行われた。

重度の発達障害でも原因が環境因子と判明すれば,比較的簡単に予防や治療ができ,幸い日本ではクレチン症の症状のでた子を一般に見ることはなくなった。

ただ現在でもアジア・アフリカなどの発展途上国ではヨード剤による予防が行われていないため,クレチン症児がまだ珍しくない地域がある。
では,どのようにして自閉症は発症するのであろう。

これは,ヒト脳の胎児期からの発達の全ステージを時間的,空間的に精査しなければ実証できないが,現在の実験技術では,ヒトではまったくといっていいほど不可能である。

しかし,ヒトでも脳の神経前駆細胞が猛烈な分裂増殖をくりかえし億単位の数になり,それぞれ,軸索と樹状突起を伸展させ,兆単位の膨大な数のシナプスを形成して,神経回路ができあがっていくという機能発達の基本メカニズムはすでに常識となっている。
これらの知識をもっていれば,自閉症などの発達障害は,神経毒性をもつ化学物質などによって特定の高次機能にかかわる神経回路の発達に何らかの異常がおこり,結果的にそのような回路ができあがらないため,回路が担っている特定の能力に障害がおこると考えるのは,むしろ高次機能の神経科学を研究してきた人間としては当然のことであった*5。
その後,2000 年代になって,同様な発想の「接続不良説」などが提唱されたが,機能神経回路がうまくできない仕組みには,シナプス形成の阻害による接続不全だけでなく,後に述べる長い軸索の維持の失敗など,より広範な可能性があり,発症メカニズムを一言で言うと「機能神経回路形成不全」が適切と考えている。実際の自閉症児の脳でおこっている発症過程は,「発達期に特定のニューロン回路の形成異常が,遺伝子発現の異常などさまざまな原因でおこり,その回路が支えている高次機能が発現する時期になってその異常が顕在化する」と考えられる*(6 図 6 参照)。