自閉症・ADHD など発達障害増加の原因としての環境化学物質4 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

2 日米欧での発達障害の増加
日米での自閉症の増加は著しい。欧州でもそれほどではないが,増加しているという疫学データがある。
米国カリフォルニア州は古くから自閉症児への社会的関心が高く,州での自閉症児の登録システムが長年続けられている。

図 3 は 1990 年から2006 年までの新規登録児数(疫学でいう有病率)をもとにしており,この間に自閉症と診断登録された子どもの数は,7 倍以上に増加した。

これらの累積有病者数の増加が,本当に罹患者(発生)数の増加なのかについては,意外なことに米国を中心に長い間論争のたねであり,さらに驚くべきことに10 年以上前までは,「実数は増えていない」という意見が疫学者などの間で幅をきかせていた。その理由は,①自閉症の診断基準が変わって,広い範囲を自閉症と診断することになったので,増えているように見えるだけだ,②自閉症のことが広く知られるようになり,今まで医師の診断を受けなかった子どもたちが診断を受けるようになった,の 2 点であった。

米国で用いられた診断基準は,1994 年に DSM-III から DSM-IV に変わっている。

灰色領域での診断は微妙で,医師の自閉症診断が少しゆるくなれば,自閉症児の数は増えることになる。

確かに,増加した数の中には,このような例が含まれているであろうが,問題は,このような理由で増加の全部を説明できるかであり,交絡因子が多く全部は否定しにくいのが当たり前の疫学ではよくあることだ 。
「実は増えているとはいえない」とする,この議論には 2 つの背景がある。1 つは,「自閉症の原因が遺伝(遺伝子の変異)である」という考えである。1990 年頃から米国では「自閉症 “原因” 遺伝子の発見」競争が始まっていた。

遺伝性(家族性)の自閉症家系など世界で 1 例も報告されていないので,「ある遺伝子変異があれば必ず自閉症になる」という原因遺伝子など初めから存在するわけはない。

「遺伝が原因である」が正しいなら,10 年間でのこのような増加は絶対におこらないはずなので,当然「自閉症児は実は増えているように見えるだけだ」と主張しなければならない。
もう 1 つは,米国での自閉症児をもつ親たちの強力な運動がある。

「自閉症の原因は防腐剤に水銀化合物を含んだ予防接種ワクチンにある」とい う 1998 年 の『Lancet』論文はそれまでの「自閉症は “冷蔵庫マザー”と言われる母親の育て方が原因である」という偏見に悩んでいた母親たちを勇気づけた。

原因である予防接種をやめさせ,自閉症を予防しようという運動が英国ばかりでなくカリフォルニア州をはじめ全米に広がった。
この動きには,予防接種が子どもの健康に必要と思う多くの医学者などが困惑し「予防接種は原因ではない」と反対し論争になった。

この論争で「予防接種の施行によっても自閉症は増えていない」という見解は,予防接種原因派への反論の 1つとなったからである。

なお予防接種原因説については,たった数回のワクチン接種で子どもに注射される水銀量は超微量で,毒性学的には初めから無理があり,『Lancet』の原論文も後に削除された。
近年,この「自閉症児増加論争」は決着がついた。

「増加していない」説の中心だった①の診断基準の変化説について,当然そのための見かけの増加はあるが,せいぜい全体の 40% で,残りの60% はほぼ純増ではないかという解析論文19が出たからである。

②については,カリフォルニア州は “自閉症の先進地域” で,1980 年代から自閉症の子どもは大きな社会的な関心を集めており,2000 年過ぎには,自閉症のことをまったく知らなかった親が,子どもを新たに医師に連れて行くケースは,ごく稀と考えられた。

「自閉症“原因”遺伝子」も次々に登場したが次々に否定され,自閉症関連遺伝子に落ち着くとともに,あまり報道されなくなった。

アメリカ自閉症協会も,「米国人の子どもの 166 人に 1 人が自閉症と診断され,しかも年々 10~17% も増加している」と推定している。
日本では,児童精神科医や発達障害を診慣れた小児神経科医の数が障害者数に比して圧倒的に少ないためもあり,疫学調査はその困難さから,東海大医学部の神奈川県港北地域での増加報告21以来あまりない。

そこで疫学調査ではないが,文科省の 2002 年の全国アンケート調査がよく引用されてきた。

全国の学校の先生に「発達障害と思われる子ども」の数を報告してもらったもので,医学的診断ではなく「学校生活で困難をかかえている子ども」という先生の側からの視点・判断が大きい。
これで,なんと全学童の 6.3%(約 17 人に 1 人)が発達障害児と思われるという結果が出て,発達障害者支援法が成立し,それが 2007 年からの特別支援教育の実施につながった(2012 年の同様の調査では 6.5%,アンケート調査なので増減はいえない)。日本では,自閉症をはじめとする発達障害の子どもたちに真摯にかかわってきた人たちが増加を実感していたので,米国のような研究費獲得がらみの「増えた」「増えていない」論争はほとんどおこらなかった。

 

run:また長い記事になるので明日以降掲載します。