4.発症者の救済と予防のために
アンケートの回答者は 75 人と少ないが、身の回りの電磁波発生源からの電磁波によって体調を崩していることがわかった。
とくに、懸念されているのが携帯電話基地局の増加で、発症の原因としても、体調を崩したことのある電磁波発生源としても最多だった。
また、電磁波を避けなくてはいけないのに、基地局が突然設置されること、行政も企業も基地局の設置場所を公表しないことを懸念する人も多かった。
携帯電話会社や自治体、総務省に問い合わせても「基地局の位置情報は、企業利益に関わる」という理由で公表されないが、発症者にとっては健康や生命に関わる重要な問題だ。
PHS 会社には位置情報を公開し、ホームページで検索できるようにしている企業もある。
フランスやスウェーデン、イギリス、ドイツ、スイスなどでは、インターネットで基地局やテレビ・ラジオの送信施設の位置を調べることができる。日本でも同様の情報公開が求められる。
医療面では、専門医が少ないため十分な治療を受けられないこと、他の病気になっても医師の無理解が障壁になること、レントゲンや MRI などの検査機器からの電磁波で体調を崩すことがわかった。
発症後、退職を余儀なくされた人が有職者の 52.5%を占め、収入が減少した人も 15.0%いた。
日常生活に支障を来たし、家事を十分にできなくなっている人もいる。
交通機関で他の乗客が使う携帯電話で体調を崩したことがある人は65%に達した。
路上生活を強いられる女性は,憲法で認められた「健康で文化的な最低限度の生活」を奪われている。
アンケートでは子どもの発症者について把握できなかったが、当団体には、子どもが電磁波過敏症になり、学校の側に携帯電話基地局があるので学校へ行くと体調が悪くなるといった声や、大学構内の無線 LAN で体調を崩すという学生の保護者からの相談も寄せられている。
このように、電磁波は電磁波過敏症発症者の社会参加を阻む障壁(バリア)であり、基本的人権を侵害している。
発症者が普通の人と同じように生活できるよう、社会全体でこの問題に取り組む必要がある。
とくに子どもたちが、健康で快適に過ごせるよう、学校や生活環境を整える必要がある。
カナダの人権委員会の報告書や、アメリカの IEQプロジェクトの報告書にもあるように、発症者のための改善策は、さらなる被害拡大を予防することにもつながるだろう。
2006 年 12 月、国連で「障害者の権利条約」が採択された。第一条では「障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な障害を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるものを含む」
(http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/adhoc8/convention.html)と明記されている。電磁波過敏症や化学物質過敏症もこの障害の定義に合致する。
この条約では、障害者の社会参加を実現するための必要かつ適当な変更を「合理的配慮」を求めている。
例えば、足の不自由な人にとって、段差が障壁(バリア)になり、合理的配慮として車いすやスロープが必要なように、電磁波過敏症発症者には電磁波が,化学物質過敏症の人には化学物質が障壁になり、電磁波や化学物質の削減によって社会参加が可能になる。