I.化学物質の許容濃度
1.定義
許容濃度とは,労働者が 1 日 8 時間,週間 40 時間程度,肉体的に激しくない労働強度で有害物質に曝露される場合に,当該有害物質の平均曝露濃度がこの数値以下であれば,ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度である.
曝露時間が短い,あるいは労働強度が弱い場合でも,許容濃度を越える曝露は避けるべきである.
なお,曝露濃度とは,呼吸保護産衛誌 2016: 58(5): 181-212
具を装着していない状態で,労働者が作業中に吸入するであろう空気中の当該物質の濃度である.労働時間が,作業内容,作業場所,あるいは曝露の程度に従って,いくつかの部分に分割され,それぞれの部分における平均曝露濃度あるいはその推定値がわかっている場合には,それらに時間の重みをかけた平均値をもって,全体の平均曝露濃度あるいはその推定値とすることができる.
最大許容濃度とは,作業中のどの時間をとっても曝露濃度がこの数値以下であれば,ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度である.
一部の物質の許容濃度を最大許容濃度として勧告する理由は,その物質の毒性が,短時間で発現する刺激,中枢神経抑制等の生体影響を主とするためである.
最大許容濃度を超える瞬間的な曝露があるかどうかを判断するための測定は,厳密には非常に困難である.実際には最大曝露濃度を含むと考えられる 5 分程度までの短時間の測定によって得られる最大の値を考えればよい.
2.濃度変動の評価
曝露濃度は,平均値の上下に変動するが,許容濃度は変動の幅があまり大きくない場合に利用されるべきものである.
どの程度の幅の変動が許容されるかは物質によって異なる.
特に注記のない限り,曝露濃度が最大になると予想される時間を含む 15 分間の平均曝露濃度が,許容濃度の数値の 1.5 倍を越えないことが望ましい.
3.経皮吸収
表 I-1,I-2 で経皮吸収欄に「皮」をつけてある物質は,皮膚と接触することにより,経皮的に吸収される量が全身への健康影響または吸収量からみて無視できない程度に達することがあると考えられる物質である.
許容濃度は,経皮吸収がないことを前提として提案されている数値であることに注意する.
4.有害物質以外の労働条件との関連
許容濃度を利用するにあたっては,労働強度,温熱条件,放射線,気圧などを考慮する必要がある.
これらの条件が負荷される場合には,有害物質の健康への影響が増強されることがあることに留意する必要がある.
5.混合物質の許容濃度
表 I-1,I-2 に表示された許容濃度の数値は,当該物質が単独で空気中に存在する場合のものである.
2 種またはそれ以上の物質に曝露される場合には,個々の物質の許容濃度のみによって判断してはならない.現実的には,相加が成り立たないことを示す証拠がない場合には,2種またはそれ以上の物質の毒性は相加されると想定し,次式によって計算される I の値が 1 を越える場合に,許容濃度を越える曝露と判断するのが適当である.
runより:この後表があるのですが今回は掲載せず簡単な説明を次の記事で書きます。