結果と考察:
PubMed等を用いた情報収集、これまでの知見の整理の結果として、以下の内容を含むマニュアル改訂新版を執筆した。
1)これまでの厚生労働研究班では、①全国6地域で、新築戸建て住宅6080 軒と継続する3年間の自宅環境調査(425軒とその全居住者1479人)、②全国5地域の国公立小学校22校で調査票調査 (10871人)と学童の自宅環境調査(178軒)を実施した。
得られたデータから、住宅あたりのSHSの有症率は3.7%であった。
SHS症状によってリスク要因が異なり、症状別の予防や対策が重要である。室内環境要因としてホルムアルデヒド13化合物、VOC類29化合物、準揮発性有機化合物(SVOC)、微生物由来MVOCを測定し、日本の住宅における曝露実態とSHSとの関連について記した。
2)諸外国の室内環境規制やSHS研究の世界的な動向について記載した。 3)SHSのリスク要因として、化学的要因、生物学的要因、物理学的要因、喫煙・受動喫煙・三次喫煙、微粒子・ガス状物質について、サンプリングや測定法、健康影響に関する知見を整理して記載した。
4)建築衛生の視点から、汚染濃度を低く維持し、快適な室内環境をつくるため、「汚染発生と流入を抑える」「換気により速やかに希釈・排出・排除を図る」方策を記載した。
5)最近の室内環境に関する問題として、仮設住宅、浸水被害、あるいは夏の熱中症・冬のヒートショックに関する方策を記載した。
6)文献調査と、札幌市における個別インタビュー調査の結果から、室内空気質汚染の健康影響のリスクコミュニケーションのあり方について、重要な点を記した。
7)室内環境に関わる体調不良相談への対応として、シックハウス症候群や、いわゆる化学物質過敏症の場合に注意すべき重要な点を記載した。
この結果、序章には、室内環境の重要性を疫学および建築学の両面から記載した。
第Ⅱ部は、疫学研究に基づく室内環境による健康影響やいわゆる化学物質過敏症に関する知見、世界の規制の動向についてまとめた。
第Ⅲ部は健康影響を及ぼす化学的要因、生物学的要因、ダンプネス、受動喫煙、粉塵、建築学的な要因を示した。
第Ⅳ部は建物の用途や構造による課題、仮設住宅、居住者の年齢や季節に応じた予防策、熱中症などを整理した。
第Ⅴ部では、リスクコミュニケーションや住宅や職場での支援、本態性環境不耐症などの症状を訴える相談への対応を述べた。
最後に資料として、関連法規やガイドライン等を記した。
結論:
SHSの実態や対策を疫学および建築学の両面からまとめたマニュアル改訂新版を全5部11章に構成した。
保健所職員や地域・職域・学校の保健担当者の利用により、SHSに関する正しい知識の普及と、質問や相談に対して、科学的根拠を踏まえた回答が可能になる。
今後は、「シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル(改訂新版)」のPDF配信をWEB公開するとともに、より効果的な活用に向けて、新聞やメディア等を通じた周知や啓発を実施する。
公開日 2016年06月20日