・第2章 「シックハウス症候群」に対する予防対策の考え方
「シックハウス症候群」の発生には、揮発性有機化合物のみならず温度、湿度及び気流等の温熱環境の因子並びに花粉、ダニ及び真菌のような生物学的な因子等様々な要因があると考えられています。近年、学校の教室等においても気密性が高くなっていますが、換気が十分でないことも発生に関係していると考えらます。
国内では、1990年代後半から「シックハウス症候群」への対策が各省庁で大きな課題として取り組まれ、それぞれの省庁ごとに関連の法整備やガイドライン策定等の体系的な対策が進められています。市町村レベルでも、保健所等において住民への相談窓口を開設し、環境衛生検査を行う等の対応が進んでいます。
また、厚生労働省では、「健康な日常生活を送るために シックハウス症候群の予防と対策」を
作成し、ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei/dl/sick_house.pdf )に公表しています。本参考資料とあわせて参考としていただきたい。
1 文部科学省のこれまでの対応
(1)厚生労働省の指針値の周知
文部科学省は、「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び総揮発性化合物の室内濃度暫定目標値等について(依頼)」(平成13年1月29日付け12国ス学健第1号。以下「13年1 月通知」という。)、「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び標準的測定方法等について(依頼)」(平成13年8月30日付け13国ス学健第1号。以下「13年8月通知」という。)及び「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び標準的測定方法等について(依頼)」(平成14年4月10日付け14ス学健第4号。以下「14年4月通知」という。)の通知において各都道府県教育委員会等に対し、厚生労働省が示した室内空気中化学物質の室内濃度指針値(下表参照)等について周知し、学校環境衛生活動の推進について適切な対応をとるよう指導しました。
参考:厚生労働省による室内空気中化学物質の指針値及び毒性指標
**:フタル酸ジ-2-エチルヘキシルの蒸気圧については1.3×10-5Pa(25℃)~8.6×10-4P(a 20℃)等多数の文献値があり、これらの換算濃度はそれぞれ0.12~8.5ppb相当である。
***:TVOCについては、個別の揮発性有機化合物のリスク評価や混合毒性の評価、あるいは測定法での改良を待たないと、指針値としては明確には定められないことは明らかであり、今後の調査研究や海外での状況を把握しながら、必要な見直しをしていくことが必要である。
【参考】
厚生労働省の指針値は、現状において入手可能な科学的知見に基づき、一生涯その化学物質について指針値以下の濃度のばく露を受けたとしても、健康への有害な影響を受けないであろうとの判断により設定された値です。
厚生労働省「室内空気質健康影響研究会報告書」において『本指針は、化学物質により「シックハウス症候群」を引き起こす閾値*を意味する値でない。』と記載され、『室内環境での濃度が指針値を超過していることだけをもって、直ちに、当該化学物質が発症の原因であると判断することは必ずしも適当ではなく、症状誘発の関連因子を特定するためには、慎重かつ適当な臨床診断に基づく総合的な検討が必要である。』と提言されています。
また、一部にこの室内濃度指針の意味が誤って理解されていると思われるケースが見受けられることから、厚生労働省では、平成16年3月30日に「化学物質の室内濃度指針値についてのQ&A」(http://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/situnai/shisinqa.pdf からダウンロードできます。)を公表しています。
*:最小値とほぼ同義
(2)学校における室内空気中化学物質に関する実態調査
文部科学省は、厚生労働省の指針値の設定を受けて、財団法人日本学校保健会に委託して、全国各地の新築・改築(1年程度)、全面改修(1年程度)、築5年程度、築10年程度、築20年程度の学校から各10校、合計50校を選定し、普通教室、音楽室、体育館(講堂を含む)、保健室、図工室(技術室を含む)及びコンピュータ教室等の化学物質の室内空気濃度について測定を行いました。
平成12年9月~10月(夏期)及び平成12年12月~平成13年2月(冬期)にホルムアルデヒド、トルエン、キシレン及びパラジクロロベンゼンを測定した結果、ホルムアルデヒド及びトルエンでは指針値を超えた部屋が認められました。また、防虫・消臭剤としてパラジクロロベンゼンを使用している便所において指針値を超えた例がありました。
さらに、平成12年9月~10月(夏期)及び平成12年12月~平成13年2月(冬期)にエチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス及びフタル酸ジ-n-ブチル、並びに平成13年9 月~10月(夏期)及び平成13年12月~平成14年2月にテトラデカン、フタル酸ジ-2-エチルへキシル、ダイアジノンを測定した結果、クロルピリホス、フタル酸ジ-n-ブチル、テトラデカン、フタル酸ジ-2-エチルへキシル及びダイアジノンについては指針値を超える例はなく、また、測定値も非常に低い値でした。
ただし、スチレンについては測定した部屋のうち1か所が指針値以上の値を示し、エチルベンゼンについても同じ場所で指針値の1/2を超える値を示す部屋がありました。
• 学校における室内空気中化学物質に関する実態調査
http://www.hokenkai.or.jp/8/8-8.html
(3)「学校環境衛生基準」
「学校環境衛生基準」(平成21年文部科学省告示第60号)は、学校保健安全法(昭和33 年法律第56号)に基づき学校における換気、採光、照明、保温、清潔保持その他環境衛生に係る事項について、児童生徒等及び職員の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準として定められ、平成21年4月1日から施行されています。
「学校環境衛生基準」の「第1 教室等の環境に係る学校環境衛生基準」において、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン及びスチレンの計6物質に対する基準及び検査方法が定められています。
(4)学校施設整備上の留意事項の策定・周知等
13年1月通知において、学校施設の整備に際しては、児童生徒等の健康と快適性を確保する観点から、室内空気を汚染する化学物質の発生がない、若しくは少ない建材の採用及び換気設備の設置等について配慮されるよう各都道府県教育委員会等を通じて指導するとともに、「学校における室内空気汚染対策について(通知)」(平成15年7月4日付け15ス学健第11号)において、学校における室内空気汚染対策やシックハウス対策に係る建築基準法の改正について指導しています。
また、建築基準法の改正を踏まえ「学校施設整備指針」(http://www.mext.go.jp/a _ menu/shisetu/seibi/main7_a12.htmからダウンロードできます。)においても、新築、改築、改修等に際しては、化学物質濃度が基準値以下であることを確認させた上で建物等の引渡しを受けることを記述しています。
さらに、学校施設整備上の留意事項の詳細については、「健康的な学習環境を確保するために―有害な化学物質の室内濃度低減に向けて―(文部科学省、平成23年3月)」(http:// www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/1305497.htm からダウンロードできます。)に示しています。
以上の内容等については、各都道府県教育委員会等に対し各種会議等で周知し指導しています。