・身体表現性障害にプレガバリンが有効?
日本の精神科では奇妙な治療が行われつつあります。
医学的に説明のできない痛みや諸症状を身体表現性障害と診断してプレガバリン(リリカ®)を処方しています。
「痛みにはプレガバリンが有効らしい。」という噂によりそのような治療が行われているようです。
科学的根拠が最も強いメタ解析によりプレガバリンは線維筋痛症に有効な報告は多数出ていますが[37]、身体表現性障害においては症例報告でプレガバリンの有効性が報告されているに過ぎないのです[42]。痛
みには痛み専用の治療をすべきです。痛み専用の治療とは線維筋痛症の治療を意味します。
日本の精神科医の多くは線維筋痛症に対して敵意あるいは嫌悪感を抱いています。
精神科を受診し身体表現性障害と診断され、私を受診して線維筋痛症あるいはその不完全型と診断された多くの患者さんから得た情報ではそのような結論にならざるを得ません。
身体化障害と疼痛性障害は存在しない
ここまで私が述べたことを総合すると身体表現性障害は存在しないということになります。
正確に言えば、身体表現性障害の中の身体化障害と疼痛性障害は存在しないということになります。
私は他の医療機関で身体表現性障害と診断された患者さんを多数診療してきました。私が診察するとほとんどは線維筋痛症あるいはその不完全型である慢性広範痛症や慢性局所痛症です。
前述したように、それが患者さんの幸福につながると考えています。
私の考えは極端すぎると思う人がいると思います。
しかし、少なくとも痛みの業界の権威者の一人であるMerskey医師は私と同じ意見を持っているのです。
精神科から身体表現性障害がなくなる
私は散々身体表現性障害の問題点を述べてきましたが、DSM-Vでは身体表現性障害という病名はなくなり、somatic symptom disorder(身体症状障害)という病名に2013年に変更される予定です[43]。
身体表現性障害が身体症状障害と病名変更になるのではありません。
身体表現性障害に含まれる心気症、身体化障害、疼痛性障害、鑑別不能型身体表現性障害の4つを身体症状障害にまとめるようです[44]。
これは大きな変更です。
私をはじめ多くの医師が身体表現性障害を批判していました。
その批判は意味がなくなります。
正式な疾病分類、診断基準が報告された後、再度批判をする必要があります。
私はこの変更に違和感を感じます。
身体科の医師から批判を受けたことが原因かどうかはわかりませんが、結果的に批判の矛先をかわしたことになります。
somatic symptom disorderに批判が起これば、次のDSM-VIでは再び疾病分類や診断基準が変更になるのでしょうか。
疾病概念そのものがこれほど大きく変化することには違和感を感じます。
違和感と言うより、精神科の疾病分類に信用が置けなくなります。
一方、線維筋痛症には全くぶれはありません。
2010年に新しい診断基準は報告されましたが、1990年の分類基準(診断基準)は廃止でなく、使用可能です[6]。
何より、疾患概念には全くぶれはないのです。その点が身体表現性障害とは大きく異なります。
交通事故後の医学的に説明のできない痛みや諸症状
交通事故後に医学的に説明のできない痛みや諸症状を訴えた場合、今までは、賠償神経症、仮病、身体表現性障害とみなされていました。
半永久的に就労不能になっても治療費や所得補償込みで100万円程度の損害賠償しか保険会社から提示されませんでした。
しかし、日本に線維筋痛症やその不完全型の慢性広範痛症や慢性局所痛症の概念が輸入されてからそれは一変しました。
判決が出た場合や和解の場合がありますが、症状が重篤であれば線維筋痛症の不完全型の場合でも約四千万円の和解金額が確定しています[45]。
保険会社は線維筋痛症ではなく身体表現性障害であると主張します。前述の様に実は同じ症状、同じ患者さんを身体表現性障害と診断したり、線維筋痛症およびその不完全型と診断しているのです。
どちらと診断すべきかは既に述べました。
百歩譲って身体表現性障害(身体化障害や疼痛性障害)が存在しても何ら問題はありません。
精神科以外の診療科、つまり身体科領域の診断がついた場合には精神科領域の診断をつけてはならないという不文律があります。
不文律であるため、教科書には記載されていません。
精神科医全員が認めているわけではありませんが、そのような不文律が医学の世界にはあるのです。
線維筋痛症の診断基準にも注目すべきです。1
990年の分類基準(診断基準)を使用する限り、その基準を満たせば、その他にいかなる疾患が存在していても線維筋痛症と診断可能なのです[4]。
そのため、百歩も二百歩も譲って身体表現性障害(身体化障害や疼痛性障害)が存在しても何ら問題はありません。