2—線維筋痛症か身体表現性障害または心因性疼痛かー | 化学物質過敏症 runのブログ

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・身体化障害と疼痛性障害診断の大前提は身体疾患の否定

 後述するように、身体科領域の診断がついた場合には精神科領域の診断をつけてはならないという不文律があります。

DSM-IVを記載した教科書には「疼痛性障害(pain disorder)の一次的症状は、1つかそれ以上の場所に疼痛が存在しており、その疼痛は精神科以外の身体的な状態あるいは神経学的状態によっては、十分には説明できないというものである。」と記載されています[1]。

また身体化障害の診断基準には「的適切な検索を行っても、基準Bの個々の症状は、既知の一般身体疾患または物質(例:乱用薬物、投薬)の直接的作用として十分説明できない。」という記載があります[1]。

つまり、線維筋痛症やその不完全型で症状を十分に説明できれば、疼痛性障害や身体化障害と診断できないのです。

「身体表現性障害であるから線維筋痛症やその不完全型ではない。」という理論は論外ですが、「疼痛性障害あるいは身体化障害であるから線維筋痛症やその不完全型ではない。」という理論はこれらの基本を無視しています。

 

線維筋痛症、慢性広範痛症、慢性局所痛症

 疾患により不完全型あるいはグレーゾーンが多い疾患と少ない疾患があります。

エイズはそれが少ない疾患ですが、線維筋痛症はそれが多い疾患です。

 線維筋痛症という疾患があります。

身体の広範囲に説明のできない痛みや諸症状が生じる疾患です。

先進国における線維筋痛症の有病率は約2%です[3]。

身体5か所(右半身・左半身・腰を含まない上半身・腰を含む下半身・体幹部)に3か月以上の痛みがあり、18か所の圧痛点のうち11か所以上に圧痛があれば、いかなる疾患が合併していても線維筋痛症と診断されます[4]。

これは1990年にアメリカリウマチ学会が定めた線維筋痛症の分類基準(診断基準)です[4]。

2010年に新しい予備的診断基準が報告されましたが[5]、診断に時間がかかるために、私は1990年の基準を使用しています。

2010年の基準が発表されましたが、1990年の基準も使用可能なのです[6]。通常、身体5か所に3か月以上の痛みがあるが、圧痛点が10以下であり他の疾患で症状を説明できない場合が慢性広範痛症です。

線維筋痛症を含む慢性広範痛症の有病率は5-18%と報告されており、平均的には10%以上と推測されています[7-16]。

さらに言えば、慢性広範痛症の基準を満たさないが、通常の腰痛症や肩こりよりも痛みの範囲が広く、他の疾患で症状を説明できない場合が慢性局所痛症です。

慢性局所痛症の有病率は慢性広範痛症と線維筋痛症をあわせた有病率の1-2倍です[3, 17-19]。慢性広範痛症も慢性局所痛症も線維筋痛症の不完全型と推測されています[20] [21-22]。

つまり、不完全型まで含めると線維筋痛症の有病率は少なくとも20%です(図1)。

 慢性広範痛症や慢性局所痛症に線維筋痛症の治療を行えば、有意差はないが線維筋痛症よりも優れた治療成績を得ることができます[23]。

世界で線維筋痛症の治療を行っている施設では通常慢性広範痛症に対しては線維筋痛症と同じ治療を行っています[24]。

つまり、治療の観点からは慢性広範痛症/慢性局所痛症を線維筋痛症と区別する必要はありません。

線維筋痛症は何とか日本に輸入され始めた状態ですが、慢性広範痛症や慢性局所痛症は全く知られていません。

正式な日本語医学用語は現時点では存在せず、私が個人に翻訳して使用している状態です。

 線維筋痛症の患者さんを問診すると、多くの人は元々肩こりや腰痛があり、10年、20年かけて徐々に痛みの範囲、痛みの程度、痛みの持続時間が悪化しています。

交通事故後の場合には例外でこの悪化が急速に進みます。

後ろ向き研究ではありますが、女性慢性腰痛症患者の約1/3は将来線維筋痛症になるという報告もあります[25]。

以上の話を総合すると、肩こりや腰痛から慢性局所痛症や慢性広範痛症を経由して最後に線維筋痛症になると推測されます[17] [19] [25-29](図1)。

線維筋痛症とはこの痛み状態とでもいうべき集団の最悪の状態なのです。



1990年の分類基準(診断基準)が報告された後、2010年に新しい臨床上の診断基準が、2011年に研究用の診断基準が報告されました。

3つの診断基準とも痛みやその他の症状の組み合わせで診断することになっています。

症状の観点から決められた診断基準です。

症状の観点から決められた診断基準であれば、どのような基準を作っても必ずそれを満たさない不完全型の線維筋痛症が存在します。

前述したように治療方法が同じであれば、二つの疾患あるいは状態を鑑別する臨床上の意義はありません。

線維筋痛症の診断基準は臨床上は無意味なのです。

では、線維筋痛症の診断基準の意義は何なのでしょうか。

それは学問のためです。学会発表や論文作成のためなのです。

線維筋痛症は不完全型あるいはグレーゾーンが多い疾患です。

正確に言えば不完全型あるいはグレーゾーンの方が遙かに多い疾患です。前述したように、肩こりや腰痛から慢性局所痛症や慢性広範痛症を経由して最後に線維筋痛症になると推測されます。

連続的な疾患のどこに線引きをして、どこからを線維筋痛症と診断するかということは、BMIにおいていくら以上を肥満と見なすかということと同じです。厳密に言えば、その線引きには科学的根拠はありません。

学会発表や論文作成の際には均一の患者を線維筋痛症としないと混乱が起こります。あまりにも症状が軽い患者さんを線維筋痛症として報告したのでは学問の世界に混乱が起こります。

線維筋痛症の診断基準とは、学会発表や論文作成の際に均一の患者を線維筋痛症として報告するために必要なのです。

圧痛点の数が10であるため線維筋痛症ではないから治療が行われないことが日本では起こっています。それは不適切な医療です。